A−1
猛暑期における自己血糖測定機の保管場所に関した報告
岐阜大学医学部附属病院 外来看護部1、同 糖尿病代謝内科2
松井静子1、中村妙子1、川地慎一2、武田純2、倉橋小代子1
症例は37歳(女性)の1型糖尿病。インスリン強化療法によりHbA1c 6.0-6.6%に維持されており、血糖値に従い2単位までのインスリンの自己増減が許可されている。本年7月下旬の猛暑期に、昼食前に400mg/dl以上の高値が連日持続した。午前中に間食などはなく、自身も高血糖時に感じる症状もなく疑問に思い、インスリン量は変更しなかった。外来受診時に、異常高値の原因を探るために血糖測定の方法・環境を確認したところ、職場では炎天下の車中に機器を保管し車中で測定していたことが判明した。測定器に異常温度マークが表示されなかったことも判明した。製造業者による検討では、機器自体に異常は認めなかったが、異常高温下に置かれた状態では実際値と乖離した高値が表示されることが明らかになった。中部地方の夏期は猛暑に見舞われることが多いので、患者指導において血糖測定器の適切な保管の重要性を再認識したので報告する。
A−2
右前腕切断患者への、インスリン(ins)自己注射および血糖自己測定(SMBG)の導入指導経験
渡辺内科クリニック1、岐阜大学医学部附属病院 糖尿病代謝内科2
山中美由紀1、川地慎一2、日比野万奈美1、岩田智美1、高橋久美子1、川瀬玲子1、大橋富美代1、渡辺郁雄1、渡辺和雄1
【はじめに】ins自己注射およびSMBGは、両手での作業が基本である。当院では、外来にてのins導入で看護師が指導を行っている。今回片手しか使用できない患者への手技指導を行ったためその経験を報告する【症例】45歳男性、1985年に糖尿病を発症。1998年に事故で利き腕の右前腕を切断し以後義肢を使用。内因性ins分泌が低く、内服療法でのコントロールは困難となり2010年4月にins療法を導入。外来での手技指導では患者と看護師、医師とが相談を重ねて様々な工夫を行った。その後の定期外来通院時に手技の確認などを行っているが、トラブルなく経過【まとめ】ins自己注射手技においては「準備、空打ち、単位設定、注射、片付け」、SMBGにおいては「準備、穿刺、測定、片付け」の過程がある。それぞれにおいて片手とその他の身体機能を上手く利用して手技を行っており、その工夫と困難であった点などを報告する。
A−3
糖尿病患者体験を取り入れた研修の効果
木沢記念病院
加藤千恵、高見和久
目的:糖尿病患者の生活背景を知る視点を養うため、患者体験を取り入れた研修を2年間開催したのでその内容を報告する。方法:研修生には事前に3日間、食事とインスリン療法を体験し、その感想をまとめ研修に出席。食事療法は各自必要エネルギー量内で食事記録を付ける。インスリン療法は指示単位のもと4回注射を行うが穿刺のみにする。この研修対象はラダーレベル2を習得した看護師で自己参加である。結果:参加者22名(平成21年)10名(平成22年)アンケート結果から2年間とも研修生の反応はよく、今後の看護実践で活かすことができると回答している。その理由として、個々の生活に応じて具体的に説明する必要性を実感でき、患者体験することで患者の気持ちに近づけたという内容だった。まとめ:患者体験を取り入れた研修は糖尿病患者の療法を支援する上で有効と思われる。
A−4
糖尿病教育入院でのチーム的アプローチ
独立行政法人 国立病院機構 豊橋医療センター
齊藤文、百々修司、彦坂麻美、中島美由紀、石原雪子、桐山裕加里、平田守、前田篤史、井上治美
【はじめに】当院では、「糖尿病教育入院クリティカルパス」を運用し、内分泌科医をはじめ、コメディカルからの講義を行っている。運用当初は、職種間での講義内容の把握、検討はなかったが、チームによる指導の確立を目指し、検討を重ねたので報告する。【検討方法】新たに「糖尿病運営委員会」を立ち上げ、各職種が模擬講義を行い、指導内容やスライドの使い方、指導ポイントについて検討を行った。教育入院の効果として、2009年4月から2010年3月までに教育入院をした男性42名、女性36名(年齢61.6±14.6歳)のHbA1cの半年後を調べた。【結果・考察】入院時のHbA1c:9.1±2.18から、半年後は、6.6±1.15と改善した。今回の検討では、各職種の指導ポイントが明確になり、個々での指導からチーム全体での指導につなげる事ができた。更なる効果的な指導方法を委員会で検討し、その結果も添えて発表する。
A−5
「療養指導入院受講者の会」の活動報告とその成果
松波総合病院生活習慣病管理部 薬剤部1、同看護部2、同栄養科3、同リハビリテーション科4、同内科5
重田和也1、山田吉子2、堀弘美3、石黒玲子3、長谷川裕矢1、佐野尚美4、林慎5
【目的】当院が糖尿病教育入院後の継続支援の1つとして行ってきた「療養指導入院受講者の会」の成果を検討する。【方法】患者とスタッフ5から6名のグループで、会食後にテーマを設定して意見交換を行った。スタッフはファシリテーターを受け持ち、交流を深められるよう支援を行った。【結果】これまでの7回の合計参加者は患者、家族101名で、1回の参加者は平均14.4人。アンケート結果から楽しかった、満足した平均99%、自己管理意欲に繋がった平均98%であった。受講直前のHbA1cの平均値は7.54%。参加後1ヶ月後7.46%、2ヶ月後7.25%。開催時よりHbA1c値が改善した患者は60%、悪化した患者29.2%、不変患者10.8%。【考察】受講者の会参加後、HbA1c値は過半数の患者で改善傾向がみられた事から受講者の会は継続支援方法として有用であると考える。
A−6
当院内科病棟におけるフットケアの現状と対策
美濃市立美濃病院 看護局
村井初美、松本幸子、後藤敏子、中島とみ子、船戸美加子、岩原ますみ
【目的】フットケアの充実【方法/対象】H19年4月-1年間に当院内科病棟入院となった糖尿病合併症のある患者104名(平均72.3±22歳)を対象に、フットケアチェックシートに基づき入院時足病変チェックを実施。【結果】有所見は、104名中91名87.5%。その内訳は1.白癬(爪白癬含む)40%。2.硬化・角化36%。3.感覚異常23%。4.発赤・亀裂12%。【対策】白癬患者には皮膚科を受診後、足洗法、局所の乾燥方法、軟膏の塗布方法を指導。硬化・角化患者には病変部をグラインダーで削り、継続したフットケア外来受診を勧めた。感覚異常患者には、足の観察方法、創傷の予防対策の指導を実施。発赤・亀裂患者にはグリセリン処置後、自己管理方法の指導を実施。【まとめ】当院では整形外科入院者を含めると下肢病変重症化から足(趾)切断に至る例を年間1-2例経験している。今後も足病変の早期発見に努め、フットケアの充実を図る予定である。
A−7
美濃市住民健診において糖尿病要精査となった受診者に対する当院の取り組み
美濃市立美濃病院 健康管理室1、同 看護局2、同内科3、美濃市保健センター4
佐藤志代1、梅村喜昭1、後藤敏子2、三浦淳3、藤田智子4
当院では美濃市保健センターが実施している住民健康診断(基本健診、特定健診、ヤング健診)において、1.HbA1c5.5%以上6.5%未満、2.空腹時血糖110mg/dl以上126mg/dl未満、3.随時血糖140以上200mg/dl未満のいずれかに該当した受診者に対する二次検査として、75gOGTTを実施している。これは美濃市保健センターからの依頼による予約検査であり、事前に外来受診することなく検査日を決定し、診察および75gOGTTを実施している。結果判定と説明を同日に施行し、その簡便さから受診者の方々にも好評である。また二次検査終了後そのまま治療につながる受診者もおり、地域と病院の連携手段としての役割も担っている。今回、私たちは平成19年度から平成21年度までの住民健康診断受診者および、75gOGTT受診者95名の結果データの分析を行い、その傾向と現状について調査したので報告する。
A−8
栄養指導実施におけるHbA1cの変化と指導の効果
いそむらファミリークリニック 栄養管理部1、同 内科2
鈴木麻未1、南亜紀1、井上洋2、磯村幸範2
平成21年1月から平成22年1月に栄養指導を実施し、採血を行った糖尿病患者35名を対象に、血糖コントロールの指標であるHbA1cを用いて栄養指導の効果について解析した。また、指導後の経過観察からリバウンド時期を予測し、再指導の最適な時期について検討した。指導2ヶ月後には、指導前と比較してHbA1c低下群は27名(ΔHbA1c-0.9)、上昇群は8名(ΔHbA1c+0.5)であった。HbA1c低下群では、指導1年後のHbA1cが指導前よりも高くなることは殆どなかった。一方、指導3ヶ月後には対象患者の38%がリバウンドへと転じたため、指導2ヶ月後の状況確認や再指導が、新たな食習慣を定着させ、良い血糖コントロールを維持する為に必要と思われた。以上より、栄養指導は糖尿病の治療に有効な手段であるが、再指導時期や上昇群へのアプローチ方法などについて、今後も更に検討を重ねていく必要があると思われた。
A−9
一卵性双生児2型糖尿病症例:合併症の差異とその原因の聞き取り調査
独立行政法人国立病院機構 豊橋医療センター 外来1、同 内科2
佐々木美紀1、奥山幸子1、徳永幸子1、深津美緒1、百々修司2
10年経過を追った一卵性双生児の2型糖尿病症例を紹介する。発症はほぼ同時期で、各々就職した別の会社の健診で発見されている。両者とも体重の変化、HbA1cなどのコントロール状況はほぼ一致し動脈硬化が頸動脈エコーで指摘できるなど合併症の特徴も一致する。弟の方は「自分は次男なのでちゃらんぽらんなのだ」と自己評価しており、実際10年目で頸動脈エコーでの評価に差が出ており、狭心症の発症・消化管出血による入院など事故が多い。糖尿病発症から10年の節目に当たり、遺伝的に全く同一である一卵性双生児で合併症の出方にどうして差が出来たのか、聞き取り調査で明らかにする。
A−10
初診時に複数の合併症を呈し、教育生活指導が有用であった1例
海津市医師会病院 内科
黒田英嗣、松居和美、石澤正剛、今井龍幸
症例は60歳女性。10年程前に糖尿病の可能性を指摘されたが放置、20代よりビール2-3本/日の飲酒があった。平成21年11月2日、10月初旬から腹部膨満感と左足関節部腫脹が続くため来院した。随時血糖348mg/dl、HbA1c 8.6%、腹部CTで肝硬変、腹水を認めた。左足関節部は発赤、腫脹、変形と熱感を認めたが潰瘍等はなく関節包内の感染、骨髄炎も認めずCharcot関節と判断した。入院時検査で空腹時CPR 0.9ng/ml、24時間蓄尿CPR 80μg/日、単純網膜症、末梢神経障害を認めた。肝疾患に伴う糖尿病として指導、食事療法とインスリン治療で良好に推移するとともに足病変についてはフットケア、アルコール性肝硬変は生活指導により再燃、悪化のない状態を保つことができている。疾患理解と教育、生活指導等が自己管理行動に大切と思われた1例であった。
A−11
大学の健診で抽出し、生活指導のみで正常化した若年境界型糖尿病の一例
岐阜大学保健管理センター・同医学部附属病院1、同大学院医学系研究科糖尿病代謝病態学2、同保健管理センター3、同大学院医学系研究科糖尿病代謝内科4
山本眞由美1、飯塚勝美2、田中生雅1、加納亜紀1、佐渡忠洋3、浅田修市1、清水克時1、武田純4
大学の健康診断を契機に若年境界型糖尿病が診断されるも、生活指導のみで正常化した症例を経験した。症例は、22歳、女性、大学生、151cm、59.7kg、BMI26.2、母方祖父が糖尿病。BMI25以上に対する大学の保健指導で、17歳頃より食後3時間程に冷汗、眠け、動悸が出現、間食で治まることを自覚していることが判明し、低血糖の精査目的で入院となった。インスリノーマを含む内分泌・代謝異常は否定。インスリン受容体抗体も陰性。75gOGTTで2時間血糖値195mg/dlと境界型糖尿病、インスリン分泌は遅延過大反応型で反応性低血糖の症状を自覚していたと診断された。5kg減量した6カ月後のOGTTでは正常型に回復。今回の精査で母親、いとこも同様症状であることが判明。本症例から、若年における体重コントロール指導は、将来の糖尿病発症予防に重要であることが示唆され、若年こそ積極的な教育をすべきと考えられた。
A−12
様々な原因で高血糖を来たした3例
ハナノキ内科クリニック
古橋直樹
症例1 55才男性。産業廃棄物処理場建設の反対運動の責任者を引き受けて食事が不規則となった。口渇と全身倦怠感を主訴に来院。血糖402mg/dl、HbA1c 10.2%、抗GAD抗体0.3U/ml未満、尿ケトン体陰性。症例2 58才男性。抗ヒスタミン薬の服用にて口渇を認め、スポーツ飲料を多飲した。全身倦怠感を認め来院。血糖384mg/dl、HbA1c 11.9%、抗GAD抗体0.3U/ml未満、尿ケトン体陰性。症例3 49歳男性。職場のトラブルから引きこもりとなり食事が不規則となった。口渇を自覚し来院。血糖351mg/dl、HbA1c 9.9%、抗GAD抗体0.3U/ml未満、尿ケトン体陰性。3例とも入院治療も強化インスリン療法も拒否され、グラルギンにて治療を開始。連日の来院を指示し、自己注射と血糖測定の手技を指導。3例とも自覚症状は改善傾向となり、血糖コントロールも良好となった。様々な原因で高血糖を来たした症例を経験したので報告した。
A−13
生理機能検査からみた糖尿病性末梢神経障害と合併症の関連性について
岐阜大学医学部附属病院 検査部1、岐阜大学大学院医学系研究科 スポーツ医科学分野2、同 内分泌代謝病態学分野3
武山知幸1、渡邉恒夫2、西村孝1、関根綾子1、野久謙1、篠田貢一1、川地慎一3、竹村正男1、松岡敏男2、清島満1
【はじめに】今回、我々は糖尿病患者における神経障害について神経伝導速度検査を用いて評価し、合併症との関連性を検討した。【対象及び方法】生理検査室に下肢の運動神経伝導速度検査(MCV)依頼のあった糖尿病患者421名を対象とし、MCVと合併症との関連性について検討した。【結果】合併症の各合併率は、網膜症が40.9%、腎症が44.7%、末梢神経障害が52.5%であった。3大合併症の保有数とMCVとの関連性について、合併症が0の患者群では45.1±2.5m/s、1つで43.2±4.2m/s、2つで40.0±5.1m/s、3つで34.3±4.7m/sであり、合併症の保有数の増加に比例しMCVの有意な低下を認めた。【結語】今回の対象群において、末梢神経障害は約半数に認められ最も高頻度な合併症であった。また、合併症の保有数に伴うMCVの有意な低下を認めた。
A−14
超音波検査による糖尿性末梢神経障害評価の有用性について
岐阜大学大学院医学系研究科 スポーツ医科学分野1、岐阜大学医学部附属病院 検査部2、岐阜大学大学院医学系研究科 内分泌代謝病態学分野3
渡邉恒夫1、関根綾子2、武山知幸2、西村孝2、野久護2、篠田貢一2、川地慎一3、竹村正男2、清島満2、松岡敏男1
【目的】超音波検査(US)と神経伝導速度検査(NCS)を用い、2型糖尿病患者の末梢神経障害との関連性について検討する。【対象及び方法】対象は、USとNCSを施行した2型糖尿病患者30名と、健常ボランティア32名の62肢の正中神経、33肢の脛骨神経である。USによる神経断面積(CSA)とNCSとの関連性について検討した。神経内部エコーについては、客観的に評価するために画像処理ソフトImage Jを用いて低エコー成分率を算出した。【結果】糖尿病群ではCSA・低エコー成分率ともにコントロール群に比し有意に増加した。また、CSAはNCSの潜時と有意な正の相関、運動神経伝導速度と有意な負の相関を認めた。【結語】今後症例を増やしての更なる検討が必要ではあるが、糖尿病の末梢神経障害の診断においても超音波検査が有用である可能性が示唆された。
A−15
外来で持続血糖測定器(CGM)を用いた療養指導の有用性 ─1型糖尿病患者15人への装着経験─
岐阜大学医学部附属病院 糖尿病代謝内科
三島百有、川地慎一、榊美香、田中利江子、古田均、日比野美保、岩下明子、小野しとみ、堀川幸男、武田純
【目的】1型糖尿病患者(T1DM)におけるCGMを用いた血糖パターンマネジメントの指導の有用性を検討。【対象】T1DM 15名(年齢35.7±7.9歳、罹病期間14.1±9.6年)。治療は強化療法 8名とCSII 7名。装着前3ヶ月の平均HbA1cは7.0±0.9%。【方法】外来にてCGMを72時間装着し日常生活を送ってもらった。患者自身がSMBG値と生活活動量、食事と間食量、インスリン使用量などを記入し、血糖変動を予想してグラフを作成。CGM脱着後に72時間の実測血糖変動のグラフを出力して、予想グラフとの比較を行った。【結果】予想と実測の差が50mg/dl未満であった時間は装着中の70%であり、100以上かけ離れていた時間は10%程度であった(詳細は発表時に供覧)。【結論】T1DMにおいて、外来でCGMを用いた指導は、患者自身が血糖変動を予想し、実測値との違いを検討する事で有用な療養指導に繋がると考えられた。
A−16
看護師を対象とした経口糖尿病薬の知識調査
浅ノ川総合病院 薬剤部1、同 看護部2、同 内科3
西村勲1、勝田晶子1、明正純子1、森正昭1、道上りえ2、高松朝男2、織田展成3
【緒言】医療安全面からも看護師の経口糖尿病薬(OHA)についての知識習得状況を確認するのは重要である。【目的】看護師のOHAに関する知識について実態調査を行う。【対象】当院の看護師301名。【方法】当院に採用されている計11種類のOHAについて、調査票を用い無記名式で、Aカテゴリーに関する分類、B食直前投与が必要なもの、C低血糖が遷延しやすいもの、D低血糖がブドウ糖でしか回復しにくいもの、Eヨード造影剤との併用を避けたいもの、の項目について調査を行った。【結果】正解率はAが26.6%、Bが37.2%、Cが32.9%、Dが28.9%、Eが38.9%であった。【考察】今回の調査では当院での看護師の知識は不十分であり、OHAの注意事項一覧表の掲示、知識確認のため繰り返しの実態調査、院内全体での勉強会、採用品目の削減などの対策が必要である。
A−17
糖尿病教育入院にて運動療法指導を行った35例の検討
岐阜大学医学部附属病院 糖尿病代謝内科
田中利江子、川地慎一、三島百有、榊美香、古田均、日比野美保、岩下明子、小野しとみ、堀川幸男、武田純
【目的】指導による運動療法の継続について検討。【対象】当科に入院され、運動療法指導を行った糖尿病患者35名(年齢56±12歳)。【方法】リーフレットを作成し、運動指導を行った。入院中、退院時、退院後約1週間にアンケートを行った。また加速度センサー内蔵歩数計にて、入院中と退院後の身体活動量を推定し運動療法の継続状況を評価し、アンケート結果と合わせて検討した。【結果】入院中は、3Mets以上の身体活動量(E)は3.1±2.4Ex/日で歩数(S)は11200±4100歩/日であり、退院後は、E : 2.3±1.7でS : 9800±2900であった。入院中と退院後のEは有意な正相関が得られた。アンケートそれぞれのカテゴリーとの相関を解析すると、退院時アンケートの運動に対する理解度のみが入院中および退院後のEと強く相関した。【結論】入院中に運動療法を実践できる患者は、退院後にも運動療法を継続して実践できていた。また入院中の運動療法指導に対する理解度が高いほど退院後の運動療法の実践・継続に繋がると考えられた。
A−18
1型糖尿病患者(T1DM)の富士登山─11年の経験をもとに
エバーグリーンヤングの会
澤村幸治、渡辺茂久、川地慎一
【緒言】T1DMでは生活に制限はないが、インスリンの調整が難しい為に行動の制限を指導する医療機関や家族が存在するのは事実である。我々は2000年より富士登山を行っており、初年度参加者は3名中1名がT1DMであったが、年々増加し11回目となる今回25名のT1DMを含む32名で富士登山を達成したので報告する。【方法】通常の登山コースで富士山の頂上まで登頂する。血糖測定、インスリン量の増減、補食を必要に応じて行い、血糖変動が少なくなる工夫をした。評価には持続血糖測定器(CGM)を用いた。【結果】五合目(am9:30)から休憩・食事・仮眠を経て山頂(am2:30)までの間に、血糖値60以下の低血糖はなく、最高血糖値は昼食後の226であり、全時間の91%は61〜180までの間で維持できた。【考察】11回目となる今回の登頂では、様々な工夫により血糖変動は非常に少なく、糖尿病でない人と同様に富士登山が可能であった。工夫した点や、はじめての参加者のCGMデータなどと共に当日供覧する。
B−1
当院での低血糖性昏睡による入院症例の検討
朝日大学歯学部附属村上記念病院
猿井宏、佐々木昭彦、武田則之
【方法】2003年から2009年までの約7年間に当院で低血糖性昏睡により入院された症例を検討した。【結果】男性15名、女性15名の計30名で、平均年齢は73.8歳であった。誤内服による非糖尿病症例を3名認めた。来院時の血糖値は平均33mg/dl、平均HbA1cは5.9%。SU薬使用例が25名(93%)をしめ、そのうち内服薬のみが20名(74%)、内服薬とインスリン併用が5名(19%)、インスリンのみは2名(7%)であった。内服薬のみでの使用SU薬はグリメピリド16名、グリベンクラミド4名。内服量はばらつきが大きく、少量例でも昏睡症例を認めた。7例ではっきりとした誘因を認め、すべて風邪による食欲不振であった。10名(41%)の患者で血糖値回復までに10時間以上を要し、低血糖が遷延した。30名中28名は後遺症を残さず退院されたが、2名で認知症の進行を認め、そのうちの1名は第7病日に心筋梗塞を発症し死亡した。
B−2
意識障害の鑑別にMRI拡散強調画像が有用であった低血糖脳症の一例
岡崎市民病院・内分泌内科1、トヨタ記念病院 内分泌科2
伊藤梨紗子1、浅井千哉子1、渡邉峰守1、奥村中1、石川孝太2
症例は89歳女性。以前より糖尿病に対してスルホニル尿素薬を内服しており、これまでに4,5回低血糖発作を起こしていた。平成22年2月下旬、昏睡状態で発見され、当院に救急搬送された。来院時の血糖は33mg/dlで、ブドウ糖を投与され200mg/dl以上に回復するも、意識は回復しなかったため、当初は脳梗塞など意識障害を来す他の疾患も考慮された。しかしMRI拡散強調画像(DWI)にて、脳梁および両側大脳白質にびまん性に高信号域を認め、低血糖脳症と診断した。第19病日、DWI高信号域は縮小したが、左放線冠にT2WI,FLAIR像にて高信号域が残存した。意識レベルは一時的に追視できるまでに改善したが、概ねJCS 100程度で推移した。低血糖脳症のMRI所見には様々な報告があるが、その特徴的な所見について若干の文献的考察を加えて報告する。
B−3
低血糖性昏睡後の経過で大脳萎縮の進行を画像上確認しえた1例
医療法人宏潤会 大同病院 内分泌代謝科
寺島康博、大西みずき
症例:39才男性。現病歴:38才時に高血糖症状で当院初診時にFBS374mg/dl HbA1c12.2%。入院にて加療。インスリン分泌が不良でインスリン治療導入となった。退院後はアナログ混合製剤2回注射にて加療中であった。39才時に、自殺目的でインスリンを過量投与(使用量不明)から推定13時間後に発見され、近医へ救急搬送。搬入時のBS17mg/dlでブドウ糖液静脈注射を繰り返すも低血糖遷延し、通院中の当院へ転送。JCS300で遷延性低血糖に対応する血糖管理・脳浮腫・上部消化管出血などの対策を施行。頭部MRIでは拡散強調像で異常は認めず。過量投与から推定40時間で血糖値は安定。病状安定後は栄養管理とリハビリを施行。意識障害は改善せず、脳CTでは2ヶ月後には大脳萎縮を認め、4ヶ月後には萎縮は進行。意識状態は約4ヶ月の時点でJCS10-20。低血糖性昏睡後の経過で大脳萎縮の進行を画像上確認しえたので報告する。
B−4
運動性失語が遷延した低血糖脳症の一例
大垣市民病院 糖尿病・腎臓内科
柴田大河、落合啓史、水越俊博、大橋徳巳、傍島裕司
症例は33歳男性。15歳発症の1型糖尿病でインスリン分泌は枯渇、IAA高値(70.9%)。近医でインスリン治療の変更後、低血糖発作が頻発。今回、約24時間持続した低血糖状態を家族が発見。会話不能で僅かな歩行障害を認めたが指示には従命できた。インスリンを使用せずに食事を摂取させたが症状が改善しないため救急外来を受診。JCS1-3、僅かな右不全麻痺を認めた。発語はないが従命は可能なため運動性失語と診断。頭部MRI拡散強調像で左側頭葉の大脳皮質を主体とした高信号域を認め、症状に一致した所見と推測された。低血糖脳症による運動性失語と診断し入院。運動性失語は徐々に改善傾向を認めたが遷延、第15病日のMRIでは左側頭葉異常所見の改善を認めた。第23病日、単語の発語可能となり退院。3ヶ月後には流暢に会話が可能となった。低血糖脳症は様々な巣症状を呈することがあるが、運動性失語はまれである。
B−5
インスリンアナログ製剤の変更により低血糖発作が改善したインスリン抗体陽性糖尿病の1例
福井県立病院内分泌代謝科
勝田裕子、斎木優子、若杉隆伸
症例は71歳女性。1992年に糖尿病を指摘され、1994年より内服治療開始。2008年にインスリンが導入され、ヒューマログ50ミックスを1日3回注射していた。2010年1月頃から早朝空腹時の低血糖、日中の高血糖を認めるようになった。5月にはヒューマログに変更したが早朝の低血糖発作は続いた。抗インスリン抗体結合率≧90%、PG80mg/dl 時のIRI 3890μU/mlと判明し精査目的に入院となった。入院4日後にヒューマログを中止しアピドラに変更したところ翌日より早朝の低血糖発作は消失した。インスリン抗体のScatchard解析では、high affinity siteの親和定数K1=0.0136(1/10-8M)と親和性は低く、結合部位数R1=89.1(10-8M)と結合能は高くインスリン自己免疫症候群にみられる抗体と類似していた。インスリンアナログ製剤の変更が有効であったインスリン抗体陽性糖尿病を経験したため報告する。
B−6
門脈大循環シャントの合併によりダンピング症候群の低血糖が悪化した1例
浜松医科大学第二内科
池谷章、釣谷大輔、余語宏介、大石敏弘、森岡哲、末廣智之、川田一仁、森田浩、中村浩淑
【症例】55歳、男性。【現病歴】H18年(50歳時)に胃癌のため胃全摘術を施行され、術後2〜3年は食後低血糖発作を起こしていたが6回分食により軽快していた。H21年末から食後に冷汗・脱力・意識障害・痙攣が出現し、アンモニア高値から肝性脳症が疑われ、当院肝臓内科に精査目的で入院となった。【入院後経過】肝合成能正常、CT/AUS正常肝。ICG停滞率高値。経直腸的門脈シンチグラフィーから門脈大循環シャントが疑われた。意識障害時の血糖値は12 mg/dLと低値で、ブドウ糖投与で症状改善。75gOGTT、食後血糖、インスリン値と血中Cペプチド値の乖離からダンピング症候群に門脈大循環シャントが合併し、低血糖が増強されたと考えられた。文献的考察を加えて報告する。
B−7
慢性関節リウマチの治療中、重症低血糖を発症した2型糖尿病の一例
藤田保健衛生大学 内分泌・代謝内科
原武志、早川伸樹、城久美子、木村麻衣子、牧野真樹、鈴木敦詞、織田直久、伊藤光泰
【症例】65歳、女性。【現病歴】55歳、糖尿病と診断され内服開始。63歳、インスリン導入。64歳、RA治療開始。膝疼痛悪化し、65歳(X年7月)当院整形外科受診。糖尿病はヒューマログミックス50朝26単位、夕16単位にてHbA1c8.0%。10月7日、抗TNF療法(Infliximab)を開始。10月22日、2回目投与。10月30日、低血糖昏睡にて救急搬送。【現症】意識:JCSIII-300。除脳固縮様肢位。BMI18.6【検査所見】血糖14mg/dL、HbA1c6.8%【経過】補液、ブドウ糖静注にて低血糖に対処した。意識状態は3日間にわたり昏睡が続き回復に時間を要した。後にInfliximab投与を再開しリウマチのコントロールは良好となった。【考察】Infliximab投与後に血糖コントロールが改善した報告が散見される。本例で低血糖との因果関係は明らかではないが、血糖コントロールに影響を与えた可能性もあり、治療薬変更には慎重な対処が必要と考える。
B−8
メトフォルミン単剤治療中に重症低血糖を発症した高齢2型糖尿病の1例
国立長寿医療研究センター
佐竹昭介、洪英在、三浦久幸、遠藤英俊
【症例】78歳、女性【病歴と経過】関節リウマチ、肥満型糖尿病、高血圧、高コレステロール血症のため、6年前に他院から当院に紹介された。糖尿病に対してスルフォニルウレア薬を処方されていたが、転院後メトフォルミン(MF)に変更し単剤治療を行った。6年間でHbA1c 7.3%から5.7%に改善し、腎機能異常も認めなかった。某月の定期受診時に無症候性胸水貯留を認め、精査目的で入院となった。リウマチ性胸膜炎と診断したが、検査翌朝、苛立ちと混乱、呂律不全、冷汗の症状があり、血糖値23mg/dLであること、ブドウ糖を投与し速やかに改善したことから、MF投与に伴う低血糖症と診断した。【考察】MFは単剤治療では低血糖を起こすことは稀である。しかし、併用薬との関連で低血糖を発症した症例が海外でも報告されており、この点に留意する必要があると考え報告する。
B−9
シベンゾリンが原因と考えられた低血糖昏睡の2例
市立島田市民病院 糖尿病内分泌内科1、浜松医科大学 第二内科2
平原直子1、望月晴子1、川合弘太郎1、森田浩2、佐々木茂和2、沖隆2、中村浩淑2
(症例1)88歳女性。糖尿病歴なし。平成21年8月30日に意識低下にて当院に救急搬送。血糖34mg/dlで低血糖昏睡と診断。ブドウ糖投与後一時改善するも低血糖持続。原因となる器質的疾患なし。シベンゾリン内服歴5年で血中濃度1411.5ng/ml。内服中止後低血糖認めず。契機として脱水による腎機能低下が考えられた。(症例2)73歳男性。糖尿病歴なし。平成22年4月29日意識低下にて当院に救急搬送。血糖23mg/dlより低血糖昏睡と診断。ブドウ糖投与し改善。慢性腎不全にて透析中であるも他に器質的疾患なし。シベンゾリン内服歴10年で血中濃度906.2ng/ml。透析に加えクラリスロマイシン内服が血中濃度上昇の契機と考えられた。(考察)シベンゾリンはβ細胞に作用しインスリン分泌を増加させる。長期内服においても何らかの契機で低血糖を誘発する可能性があり、シベンゾリン内服時は注意を要する。
B−10
塩酸モキシフロキサシン(MFLX)により誘発された重症低血糖発作の一例
岐阜大学医学部附属病院 糖尿病代謝内科1、同 呼吸器内科2
丹羽啓之1、川地慎一1、伊藤文隆2、冨田礼子1、橋本健一1、廣田卓男1、塩谷真由美1、飯塚勝美1、諏訪哲也1、堀川幸男1、武田純1
【緒言】ガチフロキサシンおよびレボフロキサシンによる低血糖は周知の事実であるが、同じキノロン系抗菌薬であるMFLXによる低血糖を明確にした報告はない。【症例】50歳女性、胸腺癌に対し化学療法にて治療中。2009年3月に糖尿病と診断され、グリメピリド1mg/dayにて管理されていた。2010年4月30日に肺炎で入院し、同日よりTAZ/PIPCとMFLXが開始。5月2日の夜間に意識レベルの低下を伴う低血糖発作(25 mg/dl)が出現し、ブドウ糖投与を繰り返す(合計152g)が朝まで遷延した。3日朝の血液検査ではCPR 20.9、IRI 105.9と血糖値58に比して異常高値を示した。MFLX中止したところCPR、IRIともに漸減し4日朝には正常(IRI 4.4)となった。なお2日朝はIRI 3.4と正常であった。また3日朝および夜のMFLXの血中濃度は健常人と同レベルであった。【考察】本報告はMFLX投与後に重症低血糖発作が生じ、その原因として内因性インスリンの分泌過剰を示した初めての報告である。
B−11
軽度耐糖能障害の経過中に劇症1型糖尿病の合併が疑われる高齢者の1例
名古屋第一赤十字病院
岩田尚子、堀部亮、池庭誠、山内雅子、村瀬孝司、山守育雄
72歳男性。脳梗塞後遺症、アルコール性肝障害、軽度耐糖能障害にて当院神経内科通院中。食事療法でHbA1c 5.5-6.1%にて推移。2010年7月6日のHbA1c 5.7%。糖尿病家族歴なし。2010年7月19日、下肢脱力と呂律困難で救急外来受診。来院時血糖710mg/dl、血清・尿中ケトン体3+、HbA1c 7.7%、GA 26.5%、動脈血pH 7.313、HCO3 14.8mmol/l、BE -9.6と糖尿病性ケトアシドーシスを認めた。腹部CT、USでは膵頭部の萎縮所見のみ。7月6日のAmy 210IU/lと軽度上昇。10日程前より口渇が出現していたこと、抗GAD抗体、抗IA-2抗体が共に陰性で、尿中CPR 9.2μg/日と低値、グルカゴン負荷試験でもCPR 0.1→0.1ng/mlと無反応であったことより劇症1型糖尿病を合併したと考えられた。高齢の軽度耐糖能障害の経過中に劇症1型糖尿病を合併した貴重な症例を経験したので文献的考察とともに報告する。
B−12
横紋筋融解および急性腎不全を呈し治療に苦慮した劇症1型糖尿病の1例
金沢医科大学糖尿病内分泌科
伊藤弘樹、小西一典、西澤誠、中川淳、渥美久登、竹田愛、永井貴子、古屋圭介、津田真一、古家大祐
63歳男性、糖尿病家族歴なし。肝機能障害で当院受診;PG 99 mg/dl、HbA1c 5.7%、Cr 0.75 mg/dl。感冒症状あり。2日後より急激な口渇・多尿、その2日後近医にてBS 134 mg/dl、HbA1c 6.6%、Cr 1.56 mg/dl。翌朝意識混濁で救急搬送。JCS 3、BP 114/60 mmHg、呼吸16/分。 Na 112 mEq/l、K 6.6 mEq/l、Cr 3.03 mg/dl、CK 6193 U/l、Amy 455 U/l、PG 1186 mg/dl、HbA1c 6.6%。ABGでpH 6.95、PCO2 21mmHg、HCO3-5mmol/l。横紋筋融解+腎不全を伴った糖尿病ケトアシドーシスと診断した。治療により血糖、pH、脱水所見は速やかに改善したが乏尿状態は持続、ループ利尿薬投与で利尿を得た。入院17時間後にCK最高11239 U/l、筋融解・腎機能関連検査値の正常化まで11日間を要した。抗GAD抗体陰性、尿中Cペプチド排泄感度以下、劇症型1型糖尿病と診断した。典型例ではあるが、治療に熟慮を要した点で報告する。
B−13
経過中に抗GAD抗体が陽性となった劇症1型糖尿病の一例
岡崎市民病院 内分泌内科1、名古屋大学医学部 糖尿病・内分泌内科2
浅井千哉子1、伊藤梨紗子1、清田篤志2、渡邉峰守1、奥村中1
症例は66歳女性、糖尿病既往なし。平成21年5月に前駆症状なく急速に強い全身倦怠感と口渇が出現。2日後に近医受診し、高血糖と尿ケトン陽性を指摘され同日当院紹介となった。初診時、随時血糖570 mg/dl、尿ケトン陽性、代謝性アシドーシスを認め、DKAが疑われたため入院となった。補液とインスリン持続静注にて翌日には高血糖および自覚症状は改善。入院後の検査ではHbA1c 6.1%、尿中CPR <1.2μg/day、グルカゴン負荷試験 δCPR 0.03 ng/ml、抗GAD抗体陰性であり、腹部CT上は膵炎を示唆する所見は認められなかった。これらより劇症1型糖尿病と診断して、強化インスリン療法を導入した。その後外来にて経過観察していたところ、同年11月の抗GAD抗体は2.0 U/mlとなった。経過中に抗GAD抗体が陽性となり、劇症1型糖尿病の病態を推察する上で貴重な症例と考えられたので、若干の文献的考察を加えて報告する。
B−14
ケトアシドーシス(DKA)発症以前より経過を追うことができた劇症1型糖尿病の一例
静岡市立静岡病院 内分泌・代謝内科
河野仁江、朴貴典、脇昌子
【症例】47歳、男性。2009年10月21日健診では正常。同年12月10日感冒様症状を認め、12月14日近医にて採血検査を施行。12月17日当院救急外来に搬送。来院時血糖(随時)1236 mg/dl、IRI<2μU/ml、代謝性アシドーシスを認めDKAとして対応。検査結果より劇症1型糖尿病と診断した。健診時はAST23IU/l、ALT22 IU/l、BS(空腹時)85mg/dl、HbA1c4.0%と正常。入院3日前の採血はAST49IU/l、ALT34 IU/l、AMY330U/l、BS(随時)166 mg/dl、IRI3.21μU/ml、CPR1.54ng/ml、プロインスリン/インスリン比(P/I比)0.57(正常:0.2)であった。【考察】発症3日前は血糖値は軽度上昇していたがインスリン分泌は良好であった。AMYや肝酵素の上昇を認めたことより膵外分泌系の異常や肝機能障害も同時に発症していたと考えられた。また、発症3日前にP/I比の上昇を認めていたことより同時期から何らかの膵β細胞異常が起きていた可能性が示唆された。
B−15
持続血糖モニタリングを用いて低血糖予防法を検討したインスリン自己免疫症候群の1例
名古屋大学医学部附属病院 糖尿病内分泌内科
中嶋祥子、尾崎信暁、中村二郎、大磯ユタカ
【症例】70歳男性。【主訴】低血糖による意識障害。【現病歴】2009年9月頃より頻回の低血糖発作を認め、翌月当科へ精査入院した。インスリン高値(IRI 5524μU/ml)および抗インスリン抗体陽性(非特異結合率85.4%)などから原因不明のインスリン自己免疫症候群と診断した。低血糖予防目的でα-GI、分食およびプレドニン5mg内服を試み、外来通院とした。しかしながら、低血糖発作の頻度は改善しなかった。治療方針決定のため2010年5月に再度当科入院となった。【結果】持続血糖モニタリング施行下に補食内容の変更やステロイド増量を試み、夜間低血糖の軽減を認めた。【結語】持続血糖モニタリングはインスリン自己免疫症候群における低血糖予防法の決定に有用であることが示唆された。
B−16
1型糖尿病患者(T1DM)の無自覚性低血糖-持続血糖測定器(CGM)を用いた15人での検討
岐阜大学医学部附属病院 糖尿病代謝内科
古田均、川地慎一、三島百有、榊美香、田中利江子、日比野美保、岩下明子、小野しとみ、堀川幸男、武田純
【目的】T1DMの無自覚性低血糖を検討。【対象】T1DM 15名(年齢35.7±7.9歳)。治療は強化療法(I群) 8名とCSII(C群) 7名。装着前3ヶ月の平均HbA1cはI群6.7±0.8%、C群7.4±1.0%。罹病期間はI群16.5±12.1年、C群11.4±5.2年。【方法】外来でCGMを72時間装着。患者自身でSMBG値を参考に血糖変動を予想してグラフを作成。CGM脱着後に実測血糖変動のグラフを出力し、予想グラフと比較。低血糖のうち予想外のものを無自覚性低血糖とした。【結果】低血糖はC群1名を除く14名に認め、いずれも無自覚性低血糖も起こしていた。装着時間に占める低血糖時間の割合はI群10.1±3.9%、C群2.6±3.5%であった。そのうち無自覚性はI群5.1±3.1%、C群1.6±2.5%であった。【結論】T1DMにおいて、CGMを用いることは無自覚性低血糖を発見する事に繋がり有用であった。またCSIIは強化療法に比べると低血糖が少ない事が判明した。
B−17
持続血糖モニター(CGM)で夜間の無自覚性低血糖を証明しえた罹病45年の1型糖尿病症例
刈谷豊田総合病院 内科
青木ゆかり、林良成、赤尾雅也、石川重人、水野達夫、大川内幸代、木村亜希子
【症例】75歳男性。1964年発症の1型糖尿病で45年間インスリン治療中。合併症は、腎症4期で腎性貧血にエポエチン使用中、光凝固術後の増殖停止網膜症、神経障害はアキレス腱反射消失、起立性低血圧で失神を繰り返し、転倒による大腿骨頚部骨折で手術歴がある。狭心症にて冠動脈バイパス術後で両下肢に糖尿病性壊疽を繰り返している。血糖管理はR3回+N2回の頻回インスリン療法を実施、SMBGは自宅PCでデータ解析され、HbA1cは6.2%(NGSP)、GAは22.9%であった。空腹時血糖が50-300 mg/dlに分布し深夜の低血糖を予想するが患者の理解が得られず、CGM検査にて夜間の無自覚性低血糖を証明した。検査後に夕のNを減量、さらに持効型への変更を承諾された。【結語】CGMは夜間の無自覚性低血糖を明確に捉え、患者の理解を得やすく治療方針の変更に貢献すると考えられた。
B−18
反応性低血糖との鑑別を要したインスリノーマの一例
富士市立中央病院 代謝・一般内科
川浪大治、宮下弓、山城秀樹、谷口幹太、藤井常宏、山田治男
症例は71歳男性。平成15年に繰り返す低血糖発作にて入院、インスリノーマが疑われ精査を行うも有意な所見なく反応性低血糖の診断であった。平成20年頃より低血糖発作頻回となったが、食後低血糖であること、糖負荷試験などの結果から反応性低血糖と考え、アカルボース投与にて経過観察していた。平成21年1月23日空腹時低血糖(26mg/dl)による意識障害出現し精査目的にて当院再入院。腹部造影CTにて膵鈎部背側に約1cmの腫瘍濃染像を認め、オクトレオチド負荷試験、選択的動脈刺激静脈サンプリング(ASVS)の結果も併せインスリノーマの確診を得た。3月6日腫瘍核出術を施行し、以後低血糖発作は消失した。確定診断に至るまで約5年の経過を要し、反応性低血糖との鑑別が困難であったインスリノーマの一例を経験したので報告する。
B−19
末期慢性腎不全に合併したインスリノーマの一例
木沢記念病院 内分泌代謝科1、同 外科2、同 病理部3、同 消化器科4、村上記念病院糖尿病・甲状腺・内分泌科5
坂井聡美1、高見和久1、李成崇1、齊藤純1、酒井勝央1、山田明子1、山本淳史2、尾関豊2、松永研吾3、杉山宏4、武田則之5
症例は71歳、女性。<既往歴>約5年前に多嚢胞性腎疾患、慢性腎不全を指摘。<現病歴>約1年程前より時に意識レベル低下が出現。平成22年2月24日、午後に意識消失のため当院に救急搬送。来院時血糖31 mg/dLでブドウ糖投与にて意識回復。同日精査入院。<現症及び経過>身長 150 cm、体重 79.5 kg、FPG 57 mg/dL、F-IRI 79.7 μU/mL、F-CPR 7.1 ng/mL、BUN 37 mg/dL、Cre 4.96 mg/dL、Ccr 10 ml/min、インスリン抗体陰性、下垂体や副腎ホルモンに異常なし。慢性腎不全のみによる低血糖との断定は困難で、インスリノーマの存在を強く疑った。造影CT および選択的 カルシウム注入法によりインスリノーマの局在を診断し、外科にて腫瘍摘出切除。幸いにも明らかな腎機能悪化なく、術後低血糖消失。末期慢性腎不全にインスリノーマが合併した例はまれで診断には細心の注意が必要と考え報告する。
B−20
APSに伴う急性発症1型糖尿病でインスリン分泌能の回復と長期保持を認めた一例
岐阜大学医学部附属病院 糖尿病代謝内科
冨田礼子、川地慎一、丹羽啓之、橋本健一、廣田卓男、塩谷真由美、飯塚勝美、諏訪哲也、堀川幸男、武田純
61歳女性。48歳時白斑、口渇、動悸、体重減少を認め入院。HbA1c11.6%、抗GAD抗体陽性(256IU/ml以上)、TRAb陽性で1型糖尿病、バセドウ病、尋常性白斑を伴うAutoimmune Poly-glandular Syndrome(APS) typeVと診断(U-CPR5.4μg/day、S-CPR1.5ng/ml)。インスリン導入後外来加療中徐々にインスリン必要量が減少し56歳時に再評価施行、U-CPR43.2μg/day、S-CPR1.57ng/mlとインスリン非依存状態を示唆する結果だった。更に5年経過した現在でもU-CPR65μg/day、S-CPR1.32ng/mlと低下を認めていない(抗GAD抗体陽性持続)。自己免疫機序の関与が明らかな1型糖尿病で長期間インスリン分泌能が保持されている興味深い症例を経験した為報告する。
B−21
薬剤性過敏症症候群(DIHS)に自己免疫性1型糖尿病を合併した一例
木沢記念病院 内分泌代謝科1、同 皮膚科2
吉田健作1、高見和久1、齊藤純1、酒井勝央1、山田明子1、山中新也2、北島康雄2
症例は62歳、女性。約10年前に2型糖尿病と診断。近医でミチグリニドを投与され2010年5月までHbA1c 5.8%と良好な血糖コントロール。また糖尿病神経障害に対してメキシチレンの投与を受けていた。6月中旬より両下肢に皮疹が出現。7月12日、血糖急上昇のため当科紹介。 PG 776 mg/dL、pH 7.143、BE -22.4 mmol/L 、血中ケトン体 14600 μmol/L、等より糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)と診断。直ちに大量輸液及びインスリン持続投与開始。また皮疹の性状からDIHSを疑いプレドニゾロンも投与。症状は速やかに改善。DKA発症、血中CPR 0.2 ng/dL、尿中CPR 1.6 μg/day 、抗IA-2 抗体陽性などより自己免疫性1型糖尿病と診断。また皮疹に関してはHHV-6の再活性化を確認し、塩酸メキシチレンによるDIHSと考えられた。今回の1型糖尿病の発症にはDIHSが強く関連したと推測され、稀で貴重な症例と考え報告する。
B−23
橋中心髄鞘崩壊症を契機に発見された緩徐進行1型糖尿病の1例
大垣市民病院 糖尿病・腎臓内科
落合啓史、傍島裕司、大橋徳巳、柴田大河、水越俊博
症例は35歳男性。飲酒歴はなし。4年前に健診で糖尿病を指摘されたが放置。2年前から口渇感・多飲・多尿あり。4日前から構音障害が出現し増悪するため近医受診、脳梗塞と診断され点滴加療。その後歩行困難となり当院救急外来受診。構音障害、右不全麻痺と運動失調を認めた。頭部MRI T2強調画像では橋に左右対象の強信号域を認めCPMと診断した。血糖421 mg/dl、HbA1c 16%、尿ケトン(-)、抗GAD抗体721IU/ml、尿中Cペプチド 24.7μg/dayで緩徐進行1型糖尿病と診断した。Na 121mEq/l、BUN 17.4 mg/dlで、血漿浸透圧は271mOsm/kgと低値であった。高血糖とそれに伴う多飲によって急激な血漿浸透圧の変化が生じCPMが発症したと考えられた。インスリン治療とリハビリにより運動機能は改善したが失調性歩行は残存した。糖尿病に合併したCPMの症例は稀であり、発症機序も含め興味深い症例である。
B−24
疾患抵抗性ハプロタイプの組み合わせで発症した緩徐進行型1型糖尿病の一例
一宮市立市民病院 糖尿病・内分泌内科
伊藤竜男、片平正人、瀬川聡子、前田晴美、安田康紀
57歳女性。高血圧症にて他院通院中の45歳時に、HbA1c9%にて糖尿病を指摘されSU剤を開始。その後SU剤増量されるも徐々にコントロール悪化し、48歳時HbA1c11.2%にて当科に紹介。インスリン導入されたが、HbA1cは概ね12%前後を推移。55歳時にGAD抗体500U/mlと判明したが、血中CPRは1.62ng/mlとインスリン分泌能は残存していた。その後もコントロール不良にてHbA1cは9%前後を推移。57歳時GAD抗体2050 U/mlと上昇し、血中CPRが0.08 ng/mlとインスリン依存状態になり、緩徐進行型1型糖尿病と診断した。HLAは、DRB1*1501-DQB1*0602と、DRB1*0403-DQB1*0302と、共に1型糖尿病に疾患抵抗性のハプロタイプであった。又抗TPO抗体陽性で、自己免疫性甲状腺疾患も合併していた。2つの疾患抵抗性ハプロタイプを有しながら、初期の不適切なSU剤使用、及び慢性高血糖状態による膵β細胞の疲弊からインスリン依存状態に陥ったものと考えられた。
C−1
副腎腺腫摘出後、糖尿病が著明に改善したサブクリニカルクッシング症候群の1例
金沢大学 臓器機能制御学
出村昌史、森俊介、大江真史、武田直也、米田隆、武田仁勇
症例は60歳、女性。36歳、高血圧、腎機能障害を指摘。40歳、右副腎腫瘤を指摘。48歳、糖尿病を指摘。49歳、腎生検にて腎硬化症と診断。52歳、インスリン導入。この際、サブクリニカルクッシング症候群(SC)と診断され、右副腎腺腫が摘出された。その後、血糖が改善し、インスリン、血糖降下剤が不要となった。53歳、透析導入。56歳、夫婦間生体腎移植が施行され、免疫抑制剤タクロリムスが開始された。高血圧は改善し、降圧剤は不要となったが、血糖コントロールが再び増悪し、インスリン加療が必要となった。SCでは、糖・脂質異常、高血圧などの合併頻度は、顕性クッシング症候群と同程度である。本症例では、高血圧、糖尿病が腎障害に深く関連していると考えられる。また、術後著明に血糖コントロールが改善している。SCに絶対的手術適応はないものの、早期に診断し加療することが望ましいと考えられた。
C−2
Gitelman症候群合併と考えられた2型糖尿病患者の1例
福井県済生会病院 内科
金原秀雄、青木桂子、松浦伸太郎、毛利研祐、久田あずさ、番度行弘
63歳男性。2010年1月、便潜血陽性精査にて直腸癌と診断。血糖 276mg/dl、HbA1c 11.4%、血清K 2.8mEq/lで紹介。ヒューマログミックス50注3回注射法を開始。pH 7.49、HCO3- 36.1mmol/l代謝性アルカローシスを認め、尿中K排泄亢進・尿中Ca排泄低下、血圧正常、Mg1.2 mg/dlの低Mg血症認め、Gitelman症候群と考えられた。CPI1.13と軽度インスリン分泌能低下認め、インスリン分泌能・感受性の低下が疑われた。インスリン総量14単位とメデット500mgによりコントロールしていたが、K・Mg製剤補充による血清K・Mg正常化に伴い、必要インスリン量は減少した。術後はインスリン治療から離脱し、CPI 1.62と内因性インスリン分泌能の改善を認めた。術後2カ月で、HbA1c 6.2%・GA16.6%と良好であり、低K・Mg血症の是正によりインスリン離脱をしえたものと考えられた。低K・Mg合併時は、本症も念頭に置くことが肝要である。
C−3
α-GI内服中に、腸管、縦隔、後腹膜気腫発症した2型糖尿病合併大動脈炎症候群の1例
岐阜大学医学部附属病院 総合内科
岡田英之、臼井太朗、高橋典子、森一郎、池田貴英、宇野嘉弘、森田浩之、梶田和男、石塚達夫
78歳女性。5年前に近医で2型糖尿病と診断され食事療法を受けていた。X-1年3月に大動脈炎症候群(AS)を発症し、当科でprednisolone(PSL)20mg/日とmiglitol 150mg/日を開始した。退院後、近医でmiglitolをvoglibose 0.9mg/日に変更され、9月にASが再燃しPSL 30mg/日に増量された。X年4月白内障の術前全身評価目的で受診した。腹部症状は無かったが、CTで腸管・縦隔・後腹膜気腫が判明した。BMI 23.3kg/m2、血圧 126/82mmHg、体温36.4℃、HbA1c 5.7%、CRP 0.11mg/dL、WBC 11950/μL。気腫はPSLによる腸管粘膜脆弱化、便秘とvogliboseによる腸管内圧亢進のため生じたと考え、絶食・補液、voglibose中止、下剤投与を行い治癒した。
C−4
高度の肥満とコントロール不良の糖尿病を合併したKlinefelter症候群の一例
富山大学医学部 第一内科1、同 泌尿器科2
藤田祥央1、金谷由紀子1、朴木久恵1、宇野立人1、小橋親晃1、岩田実1、薄井勲1、山崎勝也1、浦風雅春1、戸邉一之1、小宮顕2
症例は44歳男性。35歳時発症の糖尿病で、大量の超速効型インスリン使用にも関わらず、コントロール不良が持続するため、当科に紹介となった。入院時、HbA1c 9.0%、空腹時血糖 255mg/dl、空腹時血清 CPR 5.7ng/ml。身長182cm、体重126.8kg、BMI 38.7で、四肢が長く、中心性肥満を認めた。声が高く、体毛は薄く、女性化乳房を認めた。性腺機能低下症を疑い精査し、LH 14.4 mU/ml、FSH 19.8 mU/ml、テストステロン 0.35 ng/mlだった。hCG負荷試験ではテストステロン0.24→0.4 ng/mlと低反応で、原発性性腺機能低下症と診断した。特に既往症がなく、先天性を疑い染色体検査をしたところ47, XXYであり、Klinefelter症候群と診断した。メトホルミンと持効型インスリンを開始し、血糖コントロールは改善した。今後、泌尿器科にて男性ホルモン補充療法を開始される予定であり、その後の経過も含めて報告する。
C−5
糖尿病血糖コントロール入院中に診断されたアクロメガリーの一例
中部ろうさい病院糖尿病内分泌内科
小池佳勇、堀田恵、小内裕、長嶋正仁、初田佐和子、今峰ルイ、渡会敦子、中島英太郎、佐野隆久、堀田饒
【症例】72歳女性。平成15年より糖尿病で当院通院中。平成22年1月にHbA1c 7.6%、随時血糖377mg/dlと上昇したため、精査目的で入院。糖尿病は網膜症(-)、腎症(-)、網膜症(-)であり、Glimepiride 1mg/日のみで内服加療中。【経過】入院中、身体所見(多毛、四肢末端の肥大、下顎の突出など)よりアクロメガリーを疑った。採血にてGH 24.24ng/ml、ソマトメジンC 406.7ng/mlと高値を認めた。OGTT負荷試験にてGHの抑制を認めず、下垂体MRIにてトルコ鞍内に径1.5cmの下垂体腺腫を認めた。脳神経外科にコンサルトし、下垂体摘出術施行した。術後の血糖コントロールは良好であり、最終的に経口血糖降下薬は内服不要であった。【考察】本症例は糖尿病悪化の原因として、アクロメガリーが一因であったと考えられた。アクロメガリーの治療により、血糖コントロールの改善を認めた症例を経験したため報告する。
C−6
サルコイドーシスを合併した高齢発症1型糖尿病
松波総合病院 内科
国枝武重、棚橋弘成、村山正憲、林慎、山北宜由、安田圭吾
症例 85歳女性。既往歴:45歳子宮筋腫摘出。現病歴:78歳時、3ヶ月で15Kg の体重減少、血糖579 mg/dl、HbA1c12.5%により紹介入院。入院時抗GAD抗体49.5U/mlと高値より、高齢発症1型糖尿病と診断、インスリン強化療法開始。81歳時、両眼虹彩炎、続発性緑内障、手首、手指関節炎などよりサルコイドーシス(Src)が疑われ精査中に両側下腿前面に紅斑出現、皮膚生検にてLangerhans giant cellの集簇を認めSrcと診断。ACE26.4IU/Lと高値。胸部XPで両側軽度肺門リンパ腺腫大。心電図異常なし。その後皮膚病変は局所療法で軽快。Srcと自己免疫性内分泌疾患の合併は約20%とされているが、1型糖尿病との合併例の報告7例のみと稀で、1型糖尿病女性の産後例など若い世代での報告がほとんどである。高齢発症1型糖尿病との合併は本例のみであり、成因上興味深い。
C−7
妊娠中に発症した緩徐進行1型糖尿病の1例
富山市民病院内分泌代謝内科
早川哲雄、高櫻明子、清水暁子
症例は19歳女性。妊娠20週まで尿糖陰性。妊娠26週に初めて尿糖陽性となり、随時血糖145mg/dlで食事療法開始。以後、随時血糖180mg/dl前後であったが食事療法のみであった。妊娠37週、悪心、嘔吐を認め尿ケトン体陽性で紹介入院となった。血糖540mg/dl、HbA1c 9.2%、PH 7.381。インスリン投与により血糖低下し、緊急帝王切開を行い3374gの男児を出産。奇形なし。抗GAD抗体21.3U/ml、ICA-IgG(+)。尿中CPR 61μg/dayと内因性インスリン分泌は保たれていた。HLA-DR9(+)。緩徐進行1型糖尿病と診断し、超速効型インスリン投与にて血糖良好となり退院。退院後血糖良好であったが、半年後頃より血糖悪化し強化インスリン療法に変更。1年後のグルカゴンテストは低反応。本例は妊娠中に発症しインスリン分泌能が急激に低下した稀な緩徐進行1型糖尿病であり報告する。
C−8
出産後に1型糖尿病を発症した妊娠糖尿病の1例
順天堂大学附属静岡病院 糖尿病内分泌内科1、順天堂大学内科学代謝内分泌学講座2
船山崇1、飯村祐子1、小川剛鑑1、崔正福1、綿田裕孝2
[症例]32歳女性。2009年1月第2子妊娠中の30週にOGTTで妊娠糖尿病と診断され、2月に妊娠37週で3140gの健児を出産するまでの間、超速効型3回のインスリン療法を施行。出産1か月後の3月に感冒様症状あり、6月頃から全身倦怠感、口渇、多飲の症状が出現。6月20日の自己血糖測定で血糖値400mg/dlであったが放置し、6月27日に外来受診。血糖値500mg/dl、尿ケトン(3+)、動脈血液ガス分析正常より糖尿病性ケトーシスの診断で緊急入院となった。入院後、抗GAD抗体17.0U/ml、内因性インスリン分泌の低下も認め1型糖尿病と診断。インスリン持続静注にて血糖値改善後、強化インスリン療法を継続し退院となった。
C−9
インスリン開始後に抗GAD抗体の陽転と抗体価上昇を認めた高齢・肥満の2型糖尿病の1例
名南病院 内科
伊藤有史、辻村文宏、中島千雄、近藤知雄、三宅隆史
73歳男性、10年前に腰部打撲で受診した際、HbA1c 10.7%で糖尿病と診断され入院となった。入院時、身長161cm、体重65kg、BMI25.1kg/m2、前増殖性網膜症を認め腎症2期であった。中間型インスリンを導入し退院となったが、このとき抗GAD抗体は陰性であった。その後は中間型インスリンを継続したが、インスリン開始8年後に測定した抗GAD抗体は5.5U/mlと陽性化を認め、さらに12.1U/mlまで上昇した。HLAハプロタイプは日本人1型疾患感受性であるDRB1*0405-DQB1*0401を有しており、甲状腺自己抗体が陽性であることから、これらの遺伝因子と肥満・高齢あるいはインスリン製剤といった環境因子が複合的に作用して抗GAD抗体が陽性化したと考えた。同様な症例の蓄積は膵島における自己免疫機序を解明するうえでも、外因性インスリンによる自己免疫誘導の可能性を確かめる上でも重要と考える。
C−10
HbA1c5%台外来を目指し、DPP4阻害剤の投薬後に治療後疼痛性神経障害を起こした一例
HDCアトラスクリニック
鈴木吉彦
DPP4阻害剤投薬例の約6割(54例中33例。61%)は「HbA1c6%以下」を達成し当院では通称「HbA1c5%外来」と呼んでいる。その過程でDPP4阻害剤とSU剤との併用で発症した治療後神経障害の症例を経験した。47歳。男性。身長173cm. 体重84kg. 41歳発症の2型糖尿病。昨年11月の初診時HbA1c13.2%。空腹時血糖値432mg/dl。内服薬としてアマリール2mg、次月にシタグリプチン50mgを併用。DPP4阻害剤追加後、2ヶ月後HbA1cは7.5%、6ヶ月後6.0%となった。初診時には両足全体のしびれあり、神経伝導速度(脛骨神経)は39.5m/secだったが血糖コントロール後は、しびれは改善し自発痛が起こり治療後神経障害と診断したが、3ヶ月後、痛みは軽減し神経伝導速度は44.3m/secと改善した。結論:治療後疼痛性神経障害はインスリン治療後のみならずDPP4阻害剤開始後でも起こりえることを初めて報告した。
C−11
当院における2型糖尿病患者のシタグリプチンの使用経験
社会保険中京病院 内分泌代謝科
片岡祐子、水野裕子、林正幸、立川和重、田中博志
【目的】2型糖尿病患者におけるシタグリプチン(Sit)の効果を検討する。【方法】当院外来通院中の2型糖尿病患者にSit 25-50mg/日を投与し、開始後3か月間の血糖降下作用や有害事象について検討した。【結果】Sit投与後、全体(n=108)ではHbA1cは8.0±1.5%(JDS)から7.2±1.2%へと有意な低下を認めた。空腹時血糖値も同様に低下が見られた。またSit 50mg投与患者でグリメピリド2mg以上併用群と2mg未満併用群で比較したところ、2mg以上併用群で-1.3±0.7%、2mg未満併用群で-0.7±0.5%と2mg以上併用群でHbA1cの低下率が大きくなる傾向が認められた。また、投与前後で体重の有意な変化は見られなかった。有害事象は重症低血糖一例のみであり、肝・腎機能障害は認められなかった。【考察】Sitは2型糖尿病患者の血糖コントロールに有用であるが、SU剤を併用している場合には低血糖に留意が必要である可能性が示唆された。
C−12
シタグリプチン追加投与によるHbA1c変化量とそれに関連する要因
稲沢市民病院 内科
松永眞章、伊藤春見、草田典子、野村由夫
【目的】シタグリプチン追加投与によるHbA1c変化量と関連する要因を調べる【方法】シタグリプチンを追加した患者24名のうち、ベースラインと1ヵ月後のHbA1cを測定した18名について、1ヶ月後のHbA1cの変化量と関連する要因について検討した。【結果】ベースラインに対して、HbA1cは−0.63 %(p<0.001)と有意に低下、体重は+0.68 Kg(p<0.05)と有意に増加した。HbA1cの減少量と年齢、他の血糖降下剤の種類に関連は見られなかった。一方、HbA1cの減少量は、ベースラインのHbA1cの高さ、罹患年数の長さと関連する傾向が見られた。【結語】シタグリプチンによるHbA1cの減少量はベースラインのHbA1cの高さ、罹患年数の長さと関連する傾向がある可能性があると考えられた。
C−13
2型糖尿病患者におけるシタグリプチンの有効性の検討
公立陶生病院 内分泌・代謝内科
恒川卓、吉岡修子、西尾勇一郎、篠原由里、佐藤郁子
【目的】新規糖尿病治療薬であるDPP-4阻害薬シタグリプチンの2型糖尿病患者における有効性・安全性について検討した。【方法】外来において治療中の2型糖尿病患者に対し、シタグリプチン50mg/日を投与し投与前後における体重、BMI、TG、コレステロール(HDL、LDL)、UA、eGFR、HbA1c、1.5AGの変化について検討した。作用機序を考慮し、SU剤併用群と非併用群にわけて検討した。SU剤併用群に関しては初回検討時と最終検討時のSU剤投与量の変化についても検討した。【結果】SU剤併用群と非併用群ともにHbA1c、1.5AGは有意に改善を示した。体重、BMI、脂質に関しては有意な差を認めなかった。SU剤併用群ではSU剤の投与量が有意に減少した。副作用では重篤な低血糖は認められなかった。【総括】シタグリプチンの投与は血糖改善に有効であり、SU剤投与量を減少させることができた。今後症例を追加し報告する。
C−14
2型糖尿病患者におけるシタグリプチン投与の治療効果についての検討
聖隷浜松病院 内分泌内科
村松紀生、安川隆子、青山佐恵佳、柏原裕美子、源馬理恵子
【目的】最近使用可能になったDPP-4阻害薬(シタグリプチン)の効果と問題点につき検討した。【対象と方法】2010年3月から2010年6月に新規にシタグリプチンを処方し、3ヶ月後まで当科通院を継続した2型糖尿病患者35例(平均年齢57歳、25mg/日28例、50mg/日7例)を対象とした。投与量、併用薬の違い、患者BMIなどでグループ分けし、有効性を検討した。【結果】全例の平均で体重増加はみられず、また重篤な低血糖はみられなかった。25mg投与例、50mg投与例で明らかな差は認められなかった。BMI25未満の群(投与3ヶ月後-投与前HbA1c:-1.4%)では25以上の群(-0.6%)に比し、HbA1cが低下した。SU併用群(-1.2%)はSU以外との併用群(-0.7%)に比し、HbA1cが低下した。【結論】今回の検討ではSU剤との併用例、BMIが25未満の例で、よりHbA1cの低下を認めた。
C−15
高用量SU剤投与症例のシタグリプチン(SG)併用経験
千内科クリニック
千正鎬
高用量SU剤投与症例のシタグリプチン(SG)併用経験 DPP4阻害薬(D4I)はSU剤併用で重症低血糖の発症がある。SG投与200例の使用経験から安全なD4I投与方法SG50mg隔日投与を行い高用量SU剤併用例も重症低血糖なく改善みた症例の臨床経過を報告。症例1 80才女性 糖尿病歴17年 グリメピリド(GP)6mg/day内服中HbA1c 8~9%SG50mg隔日投与。1ヶ月毎HbA1cは、 9.1→8.1→7.5→7.0→6.9→6.8%平行してGPを減量(6→6→2→1→0.5→0.25mg/日)。症例2 59才男性 糖尿病歴22年 精神疾患合併 グリベンクラミド(GC)(10mg/日)内服中SG50mg隔日投与を開始。1ヶ月毎HbA1cは、 10.1→9.8→8.7→7.9→7.5→6.9% SU剤変更減量(GC10→10→GP2→1→1→0.5mg/日) 二次無効の高用量SU剤使用例にSG隔日投与著効例あり。場合によりD4I隔日投与が安全で著効例にはHbA1c、血糖値の変化に対応してSU剤のさらなる減量が必要。
C−16
SU剤2次無効2型糖尿病患者へのSitagliptin追加投与の検討
知多市民病院 内科
石川敦子、高木佐苗
【目的】2型糖尿病患者で、従来の経口血糖降下薬を投与しても十分な血糖コントロールが得られていない症例に、Sitagliptinを追加投与し、治療効果を検討した。【対象と方法】2型糖尿病患者39例(男性18例、女性21例、平均年齢66.0±12.2歳)に、従来の経口血糖降下薬にSitagliptinを追加投与し、投与後のHbA1c、体重の変化について検討した。【結果】投与前HbA1c(JDS値)は8.2±1.0%、投与1ヶ月後7.8±0.7%、2ヶ月後7.2±0.7%、3ヶ月後7.2±0.7%、4ヶ月後7.0±0.6%と改善。体重変動は投与後1ヶ月0.4±1.1kg、2ヶ月後0.7±1.3kg、3ヶ月後0.4±1.8kg、4ヶ後-0.1±2.4kgと体重変動は少なかった。低血糖症状によりSU剤の減量や中止となったのは39例中14例であった。【結語】SU剤2次無効2型糖尿病症例でもSitagliptinの追加投与は有用と考えられた。
C−17
シタグリプチン併用が有効であった若年肥満糖尿病の一例
焼津市立総合病院 代謝内分泌科
坂本要、原口美貴子、井村満男
症例は37歳女性。身長156cm体重108kgBMI44.3皮下脂肪面積/内臓脂肪面積=598.1/155.2。平成12年より高血圧症と脂質異常症のため近医で治療。平成17年より糖尿病発症。グリメピリド、ピオグリタゾンで治療。平成22年6月、血糖コントロール不良のため当院紹介受診。血糖232mg/dl HbA1c 8.9%。IRI値よりHOMA-β 89.5 HOMA-R 24.1、尿中CPR46.2μg/dlグルカゴン負荷試験CPR0’ 3.2ng/dl CPR6’ 5.1ng/dlのためインスリン抵抗性大と判断。血糖コントロールのため6月25日治療及び教育入院となる。食事療法、運動療法、シタグリプチン(50mg)1Tを併用したところ、血糖日内変動150/197-115/93-96/207-196(M値10.4)、グリコアルブミン値10.5%→8.6%、体重108kg→102kg、血糖は100-150mg/dlと改善。入院中に低血糖などの副作用はない。高度肥満糖尿病にシタグリプチンが有効であった一例を経験したのでここに報告する。
C−18
シタグリプチンの効果およびその影響因子についての検討
富山赤十字病院 内科
高田裕之、川原順子、平岩善雄
DPP4阻害薬であるシタグリプチンの効果に影響を与える因子は、現在のところ明確ではない。今回、コントロール不十分な糖尿病患者にシタグリプチンを投与してその効果を調べるとともに、どのような患者により効果が見られるかを検討した。食事運動療法または経口血糖降下薬でHbA1c6.5%以上の糖尿病患者22人に、シタグリプチン50mg/日を3ヶ月間投与して、その前後の体重、HbA1c、脂質、空腹時インスリンなどについて検討した。HbA1cは7.1%から6.9%に改善(P<0.05)、体重については有意な変化を認めなかった。またHOMA-βが23.5%から35%と改善した(P<0.05)。HbA1cの改善は、空腹時トリグリセリドとのみ正の相関を認めた。今回、シタグリプチンはインスリン分泌を改善して、HbA1cを約0.7%改善させた。また空腹時トリグリセリドが高い方が、その効果が大きい可能性が示唆された。
C−19
当院におけるシタグリプチンの使用経験
名古屋記念病院 代謝内分泌科
石山雅美、後藤忍
シタグリプチン投与開始当日から血糖が低下した2例と投与開始後8週間以上経過観察できた例について解析を行った結果を報告する。【症例1】68歳女性、グリベンクラミド10mg内服にて、空腹時血糖157md/dl、HbA1c13.2%。シタグリプチン50mg追加投与開始当日よりグリベンクラミド5mg、3日後より2.5mgに減量。10日後の空腹時血糖109mg/dl、HbA1c11.1%。【症例2】75歳女性、グリメピリド6mg内服にて、空腹時血糖126md/dl、HbA1c8.8%。シタグリプチン50mg追加投与開始当日よりグリメピリド3mgに減量。12日後の空腹時血糖104mg/dl、HbA1c8.6%。【結果】8週間後の平均HbA1cは約1%低下。平均体重はほとんど変化が無かった。HbA1cが高い群がよりHbA1cが改善した。BMIが低値の群がよりHbA1cが改善した。罹病期間、併用薬剤では差が無かった。
C−20
DPP-4阻害剤の使用経験
福田内科
福田成俊
当院外来に受診中で、DPP4-Iを内服中のII型糖尿病の患者160人について調べた。(1)今までの内服薬にDPP4-Iを追加したもの (2)α-GI、SU剤を減量または中止してDPP4-Iを追加したもの (3)単独でDPP4-Iを使用したもの (4)シタグリプチン50mgで効果不十分のもので100mgへ変更したもの (5)(1)または(2)のうち、途中で血糖コントロールが改善して主としてSU剤を減量または中止としたもの 以上の症例が主なものである。またAbA1cが1%以上改善したものを有効とした。<結果>(1)の症例の半数が有効であった。(4)では有効なものはなかった。(5)は多数の症例が存在する。
C−21
シタグリプチン、グリメピリド併用にてインスリン離脱可能となった高齢2型糖尿病の1例
高山赤十字病院 内科
澁谷高志、柴田敏朗、李成崇、熊田瑛子、川嶋修司、棚橋忍
【症例】79歳女性【主訴】口渇【現病歴】糖尿病罹病歴約20年程度の患者。近医にてグリベンクラミド、ボグリボース投与されHbA1c7から8%程度であった。2009年末頃からHbA1c上昇、2010年4月にHbA1c14.0%、PG535mg/dlと高値であり、当科紹介。【検査所見】FPG 256mg/dl、 空腹時CPR0.48ng/ml。【経過】SU剤二次無効と考えられ、糖毒性解除目的でインスリン導入。血糖安定した時点でインスリン26単位/dayを必要とし、空腹時CPR0.32ng/mlと低値であった。患者と相談の上インスリン離脱、グリメピリド1mg、シタグリプチン50mg併用したところ朝食前後PG 178-253mg/dl、朝食前後CPR 1.02-3.57ng/mlと血糖コントロール、内因性インスリン分泌の改善を得た。【考案】SU剤二次無効例において、SU剤とシタグリプチンの併用はインスリン回避、離脱のための有用な選択肢であると考えられた。
C−22
当院外来通院中の2型糖尿病患者でのシタグリプチンの有効性と安全性の検討
中部労災病院 薬剤部1、同 糖尿病・内分泌内科2
成田麻理子1、中島英太郎2、渡会敦子2、今峰ルイ2、長嶋正仁2、河村孝彦2、堀田饒2、佐野隆久2
【目的】2型糖尿病患者でのシタグリプチン(SITA)の有効性と安全性を検討【方法】SITA服用開始後、3ヶ月間の経過観察が可能であった患者49例で、HbA1c値や併用薬の影響および副作用を解析。【結果】SITA開始1ヶ月後より、HbA1cは有意に低下(1ヵ月後:-0.39%、2ヵ月後:-0.69%、3ヵ月後:-0.85%)。投与前のHbA1c値7%未満、7~8%、8~9%、9%以上の4群での層別解析にて、3ヶ月後のHbA1c低下量はそれぞれ-0.34%、-0.85%、-0.83%、-2.25%で、前値が8.1%未満の症例(20例)で6.5%以下が到達可能であった。インスリン分泌刺激薬併用患者44名中14名の患者がSITA追加で刺激薬を減量あるいは中止できた。安全性には特に問題はなかった。【考察】2型糖尿病患者ではSITAは有効かつ安全である。
C−23
リラグルチドの効果を持続血糖測定(CGM)で検討した高度肥満2型糖尿病の1例
静岡県立総合病院 糖尿病・内分泌内科
橋本卓也、米本崇子、高屋和彦、田口吉孝、井上達秀
【症例】63歳女性。【既往歴】高血圧、脂質異常症、慢性心不全【現病歴】H11年に2型糖尿病と診断され、近医で内服治療開始。グリクラジド、メトホルミン、ピオグリタゾンにてHbA1c 6.4%(JDS)と血糖コントロールは良好であったが体重増加(6年で21kg)が著明であるため当院紹介入院。【現症】身長150cm、体重105kg、BMI 46.5、V/S比=0.62、体脂肪62.0%、血圧105/54mmHg、脈拍55/min(整)。【経過】グリクラジド、ピオグリタゾンを中止してリラグルチド導入(0.3→0.9mg/dayに漸増)。2週間のリラグルチド治療にて体重減少(-4.5kg)、75gOGTTにおける血糖値改善、インスリン分泌増加、グルカゴン分泌低下、CGMで夜間低血糖の消失、食後高血糖の改善を認めた。【結語】高度肥満2型糖尿病患者において、リラグルチドは著明な膵β細胞機能改善効果を示すとともに、減量及び低血糖リスクを減少した。
C−24
当院でのヒトGLP-1アナログ製剤リラグリチドの使用経験と今後の課題
岐阜大学医学部附属病院 糖尿病代謝内科1、同 医療連携センター2、同 生体支援センター3
青松元昭1、堀川幸男1、2、丹羽啓之1、冨田礼子1、橋本健一1、塩谷真由美1、川地慎一1、飯塚勝美1、3、諏訪哲也1、武田純1、2
新規糖尿病治療薬として、ヒトGLP-1アナログ製剤リラグリチドが臨床現場で使用可能となった。今回当院にて食事、運動療法のコンプライアンスが悪く、高用量インスリンを使用していた肥満型2型糖尿病患者に体重減少効果も期待し、インスリンをリラグリチドへ変更した。リラグリチド変更後は空腹時CPR、食後CPR共に増加したが、空腹時血糖の抑制は十分ではなかった。一方食後血糖の抑制は認められ、血糖の変動指標M値は、7回法にて変更前33.5±26.3、変更後3.85±7.02と有意(P=0.001)に低下し、血糖変動は平坦化した。空腹時インスリン分泌量が増大したにも関わらず、空腹時血糖が十分に抑制されない症例が存在しており今後グルカゴン抑制効果の検定とともに空腹時血糖の抑制をどのように行うかの課題が残った。当院でのリラグリチド使用経験と今後の症例適応について報告する。
D−1
発症後約3ヶ月で死亡の転機をとった両下腿糖尿病壊疽の1例
金沢大学大学院臓器機能制御学
北本英子、伊藤直子、八木邦公、大畠梓、藤本彩、窪田美幸、武田仁勇、山岸正和
症例は60歳男性。20歳代より大酒家。36歳時に糖尿病と診断され、51歳時に慢性腎不全にて血液透析導入。56歳時に胃癌にて胃全摘術。57歳頃より非代償性肝硬変となった。2010年3月ひび割れを契機に右第5趾、左第1趾に壊疽が出現した。5月両下腿壊疽の加療目的に当院紹介。壊疽部MRSA感染による敗血症性ショック、両側大量胸水、極度の低栄養状態を認めた。循環動態維持を図り、抗生剤、高カロリー輸液、血液透析、人工呼吸器管理など積極的治療を行うも、敗血症、DICから離脱できず、第35病日に死亡。糖尿病下腿壊疽の原因は約60%が末梢神経障害、約10%がASOの進行、約30%が混合性であるとされる。本症例は両側足関節までの動脈血流は比較的保たれていたが、高度の末梢神経障害や極度の低栄養状態によって壊疽が進行したと考えられた。剖検所見と合わせて考察し、報告する。
D−2
足壊疽切断術後に敗血症が増悪しショックに至った2型糖尿病の一例
金沢大学医学系研究科恒常性制御学
島孝佑、加藤健一郎、金森岳広、竹下有美枝、太田嗣人、御簾博文、金子周一、篁俊成
症例は83歳男性。30年来の3大合併症を伴う2型糖尿病、慢性腎不全(Cr 3mg/dl台)、ASOで通院し、インスリン療法によりHbA1c 6%台を推移していた。2010年2月に生じた右母趾壊疽及び蜂窩織炎(WBC 16950/μl、CRP 19.0 mg/dl)に対し、抗生剤で加療するも敗血症に進行し、下肢切断術を施行した。術後第X日、低アルブミン血症(1.7 mg/dl)と炎症による血管透過性亢進による大量胸水、および敗血症性心筋症から、呼吸不全とショックに至った(BP 90/65 mmHg、SpO2 50%)。人工呼吸・持続的血液濾過透析を含めた集学的治療により、炎症反応は沈静化し、維持透析を必要とすることなく軽快、術後第39日に退院した。糖尿病足壊疽に対する膝上レベルでの下肢切断後、1か月以内の死亡率は8-12%と報告されている。本例の経過から、足壊疽切断術後に生じる全身合併症と管理のあり方を議論したい。
D−3
下腿壊疽より敗血症性ショック、低体温症を来たし両下腿切断で救命しえた2型糖尿病の一例
名古屋第一赤十字病院 内分泌内科1、同 形成外科2
池庭誠1、林祐司2、菱田雅之2、堀部亮1、岩田尚子1、足立浩一1、山内雅子1、村瀬孝司1、山守育雄1
52歳男性。30代より2型糖尿病にて通院中。2003年よりインスリン治療中なるもHbA1c10%前後で推移していた。2007年下腿骨折を契機に両下肢糖尿病壊疽を罹患、以後慢性遷延。形成外科にてデブリドマンおよび植皮で保存的に治療するも免荷指示守れず悪化、体力を消耗。2010年1月、両側下腿壊疽拡大を契機とした敗血症性ショック、低体温症、高血糖高浸透圧昏睡を併発し、救急搬送さる。JCS 3-100、直腸温 28.9℃、入院時血糖 907mg/dl、HbA1c 7.9%、Hb 6.4g/dl、Plt 6.4万/μl、CRP 20.2mg/dl、Alb 1.6mg/dl。尿中CPR 3.0μg/day。足関節液からB群β連鎖球菌を検出。集学的治療にて全身状態改善、第17病日に両下腿切断。以後廃用症候群のリハビリを行い回復期病院に転院。現在は外来通院中だが、治療態度と血糖調整の著明な改善を認めている。治療、教育に難渋した一例として報告。
D−4
内シャント増設術後MRSAによると考えられる胸椎椎体椎間板炎をきたした糖尿病性腎症の1例
済生会松阪総合病院 内科
橋本章、山脇弘二、垣本斉、保田憲基
症例は62歳の男性。40歳時糖尿病を指摘されインスリン治療を受けていた。糖尿病性腎症にて57歳より人工血液透析開始。HbA1cは10%前後と不良。平成20年11月14日グラフトを用いた内シャント増設術を施行。その後縫合部に浸出液付着があり外来で治療を受けていた。平成21年1月20日38℃の発熱をきたし当院に救急入院となった。血液検査ではCRP9.4mg/dlと炎症反応の上昇を認め、血液培養ではMRSAを検出した。感染源不明のままTEICを投与したが効果乏しく1月27日グラフトを抜去した。グラフトよりMRSAが検出された。3月21より両下肢の筋力低下が出現、MRIにて胸椎6/7、9/10にT1で低信号、T2で高信号を認め化膿性椎間板炎と診断、同日緊急手術を施行したが下肢の麻痺が残存し寝たきり状態となった。手術検体よりはMRSAは検出されなかった。MRSAによると考えられる胸椎椎体椎間板炎はまれな疾患であり報告する。
D−5
化膿性脊椎炎を契機に診断された糖尿病合併Cushing症候群の一例
独立行政法人 名古屋医療センター 糖尿病内分泌内科1、同 膠原病内科2
鵜飼ゆうひ1、岡嵜裕子1、横田文子1、山田努1、山家由子1、加藤泰久1、鈴木道太2
43歳女性。2010年4月微熱、全身疼痛、下肢の脱力出現。膠原病の既往あり当院膠原病内科受診。採血で炎症反応上昇、血液培養にてMSSA陽性。腰椎MRIにてL5/S1椎間板に病変認め化膿性脊椎炎と診断され抗生剤投与開始。また高血圧、糖尿病(HbA1c7.9%)あり当科紹介。満月様顔貌、中心性肥満認めたためCushing症候群を疑い内分泌的検査施行。早朝コルチゾール21.38ng/ml、ACTH感度以下。ACTH、コルチゾール日内変動消失。尿中コルチゾール365μg/日。デキサメサゾン抑制試験:1mg、8mgともに抑制なし。腹部CT:右副腎3cm大の腫瘤あり。副腎シンチグラフィー:右副腎集積あり。以上より副腎性Cushing症候群と診断。降圧薬内服、インスリン療法行なった。化膿性脊椎炎は治癒し今後は副腎腫瘍摘出術を予定している。今回Cushing症候群/糖尿病を背景とし化膿性脊椎炎と発症したと考える一例を経験したので報告する。
D−6
2型糖尿病を合併し椎体椎間板炎を伴った両側腸腰筋膿瘍の一例
三重大学医学部附属病院 糖尿病内分泌内科1、同 保険管理センター2、同 消化器肝臓内科3
佐々木良磨1、上村明1、坂本正子1、安間太郎1、鈴木俊成1、大西悠紀1、松本和隆1、赤塚元1、矢野裕1、住田安弘2、竹井謙之3
症例、51歳男性。30 歳に糖尿病と診断された。その後、外来受診していたが、2008年頃には経口血糖降下薬グリメピリド4mgにてHbA1c9%台と血糖コントロール不良であった。2009年1月下旬から発熱、腰痛出現したため、当院外来受診し、腎盂腎炎の診断にて入院となった。抗生剤加療行なうも強い腰痛持続したため、腹部CT及びMRIを実施したところ、L1/L2 の椎間板炎と両側腸腰筋内に広がる膿瘍を認めた。膿瘍に対し抗生剤加療に加えCTガイド下経皮的ドレナージを行なった。膿部培養から黄色ブドウ菌(MSSA)が検出された。抗生剤8週間投与の末、治療に至った。尚、高血糖に関してはインスリン導入し、最大40単位/日にてコントロールした。2型糖尿病を合併し椎体椎間板炎を伴った両側腸腰筋膿瘍の報告は比較的稀であるため、文献的考察加え報告する。
D−7
腸腰筋膿瘍を併発した2型糖尿病の1例
旭労災病院 糖尿病内分泌内科
岸雅也、小川浩平、蜂谷真代
症例は78歳、男性。既往に30年来のコントロール不良の糖尿病あり。平成22年5月中旬頃から右腰部痛・右大腿部痛が出現。6月14日転倒し当院受診。血液検査にて著しい炎症所見と血糖値およびHbA1cの上昇が見られた。腹部CT検査にて右腸腰筋内に広がる約3cm×4cm×17cm大の膿瘍を認め、腸腰筋膿瘍の診断にて入院となった。腰部MRI検査ではL3/4の椎体椎間板への炎症の波及あり。また、血液培養より肺炎球菌が検出された。抗生薬静脈投与およびインスリン注射による血糖管理にて加療を開始。その後、症状の軽快や炎症所見改善が認められドレーナージや切開排膿を行うことなく治癒しえた。本症例において感染経路や発症機序など不明であったが、基礎疾患として合併していたコントロール不良の糖尿病が誘因と考えられた。我々は腸腰筋膿瘍を合併した2型糖尿病の1症例を経験したので若干の考察を加えて報告する。
D−8
膿胸及び横隔膜下膿瘍に大腿静脈カテーテルによる腸腰筋膿瘍を合併した2型糖尿病の1例
美濃市立美濃病院 内科
伊藤勇、三浦淳、永澤守、三原昌弘
症例は78歳、男性。約10年前に糖尿病と指摘され、食事療法と経口血糖降下薬によってHbA1c6%台の血糖コントロール状態であった。2009年7月6日より発熱出現し、当院救急搬送され入院となった。入院後右下葉肺炎から右膿胸に移行したが、抗生剤投与及び胸腔ドレナージにより軽快した。その後右横隔膜下膿瘍、左腸腰筋膿瘍の合併を認めた。右横隔膜下膿瘍については抗生剤投与にて軽快したが、左腸腰筋膿瘍については抗生剤投与にて改善認めず、左大腿静脈から挿入中のカテーテルを抜去したところすみやかに腸腰筋膿瘍の改善を認めた。高齢者で認知症を認める場合、カテーテルの自己抜去の危険性を考慮し、日常診療にて大腿静脈からカテーテルを挿入せざるを得ないことも多い。その場合、たえず易感染性を考慮し、説明困難な発熱が続く場合は躊躇せずに早期にカテーテルを抜去することが必要である。
D−9
Klebsiella感染による肝膿瘍および感染性眼内炎からの失明を来した未治療2型糖尿病の一例
名古屋第二赤十字病院 糖尿病・内分泌内科
前田裕子、稲垣朱実、笠井貴敏、中島孝太郎、東慶成、垣屋聡
【症例】59歳女性 数年前より口渇多飲、易疲労感、両足趾痛みあるも放置。2009年8月5日より便の狭小化、下痢が出現。19日には39.1度の発熱、嘔気、左眼視力低下が出現し緊急入院。【身体所見】意識清明、右季肋部軽度圧痛あり【検査所見】WBC 13900μg/dl、 CRP 21.11mg/dl、HbA1c 13.1% 眼底検査:左中心性動静脈炎、網膜炎、硝子体の混濁著明 腹部CT:直腸腫瘤、肝内S1中心にリング状造影効果のSOL多発【経過】入院翌日には急速に左眼が視力低下し失明。眼科的所見から感染性の眼内炎と考えられ肝内多発SOLについては転移との鑑別が問題となったがSBTCPZで消失。血液培養はKlebsiella pneumoniae陽性。【考察】コントロール不良な糖尿病が基礎疾患に存在し、直腸癌病巣の感染から眼内炎および肝膿瘍を呈したと考えられた。
D−10
コントロール不良2型糖尿病患者にMRSA眼内炎を来たした一例
浅ノ川総合病院 内科1、金沢大学医学部付属病院 内分泌代謝内科2、浅ノ川総合病院 眼科3
山本泰弘1、森俊介2、織田展成1、白尾裕3、上原雅美3
症例は62歳男性、44歳頃より2型糖尿病にて近医へ通院するも不定期であった。2009年にインスリン注射療法を導入されるも、自己中断していた。2009年11月頃より左視力低下を自覚し、近医眼科を受診した。左眼虹彩炎を認め、ステロイドを投与されるも改善なく当院眼科へ紹介受診となった。左眼内炎、HbA1c 14%と著明な高血糖を認めたため当科紹介入院となった。左眼痛を認め、硝子体培養よりMRSAが検出されたたため、MRSAによる眼内炎と診断し、ABK投与を開始、左硝子体切除術を施行した。画像上は、前立腺膿瘍が疑われた。眼内炎の改善を認めず、12月に左眼内容物除去術を施行した。以後全身状態は改善、糖尿病に関しては自己インスリン注射療法にて改善し退院となった。MRSA眼内炎は非常に稀ではあるが、予後不良であり注意すべき疾患と考えられるため、文献的考察を加え報告する。
D−11
糖尿病腎症4期15例の予後 ─ 8年間の経過を追った前向き研究 ─
渡辺内科クリニック1、岐阜大学医学部附属病院 糖尿病代謝内科2
渡辺和雄1、川地慎一2、渡辺郁雄1
【緒言】我々はクリニックにおける外来診療のなかで、腎不全期の症例の進行を検討したので報告する。【対象】2002年に当院を定期通院していた2型糖尿病患者440例のうち、腎症4期と判断した20例を対象とした。20例中観察期間中に通院中断(転院など)した5例を除外した15例で検討した。【結果】全例に定期通院にて食事指導・血圧・血糖コントロールを行った。15例中、腎症と関連が否定できない死亡が2例、透析導入4例であり、残りの9例は2010年現在で当院通院中である。9例のうち、血清クレアチニンの倍化を認めた症例は3例のみであり、6例はほとんど上昇を認めなかった。【考察】8年間の経過観察で、15例のうち6例はほとんど腎症の進行を認めなかった。食事指導の遵守状況、使用薬剤に加え、8年間の血糖・血圧コントロール状況、および登録前の血糖・血圧コントロール状況を詳細に検討した結果を当日供覧する。
D−12
糖尿病患者における糸球体濾過量低下とIMTとの関連について糖尿病性腎症病期別での検討
博俊会 春江病院 内科1、同 脳神経外科2、同 外科3
前田肇1、重森一夫1、土田哲2、小林泰三3、嶋田紘3、嶋田貞博3
【目的】2型糖尿病患者において、IMTに及ぼす尿アルブミン排泄率と糸球体濾過量(eGFR)低下との関連を検討した。【対象と方法】当院外来通院中の2型糖尿病患者で正常アルブミン尿(N群)と微量アルブミン尿(M群)を呈する95例を対象とした。さらに、2群を推算GFRが60ml/min/1.73m2以上の腎機能正常群とそれ未満の低下群に分け、IMTを比較検討した。【結果】M群のIMTは、N群のそれに比べ高値の傾向があった。N群、M群ともに、腎機能低下群のIMTは、腎機能正常のそれに比べ高値であった。N群、M群において、腎機能低下群は、正常群と比べ年齢が高く、高血圧合併が多い傾向にあった。【総括】微量アルブミン尿群のうちGFR低下群で、IMTが最も高値を示し、微量アルブミン尿だけではなく、GFRともIMTは関連することが示唆された。
D−13
利尿薬配合高血圧薬における2型糖尿病患者の耐糖能への影響
刈谷豊田総合病院
木村亜希子、赤尾雅也、水野達央、石川重人、青木ゆかり、林良成
【目的】利尿薬配合高血圧薬の糖尿病患者の耐糖能に対する影響を検討した。【方法】当院外来通院中の高血圧症合併2型糖尿病患者を対象とした。平均14ヵ月間利尿剤配合高血圧薬を投与後、高血圧治療をARBおよびCa拮抗薬に変更し変更前および変更3ヵ月後の血圧、HbA1c値につき検討した。【結果】血圧の変動には有意な差を認めなかったが、HbA1c値は変更前8.1 ± 0.9%が変更後7.2 ± 1.0%に低下し有意差を認めた。【まとめ】2009年の高血圧症治療ガイドラインでは糖尿病患者の高血圧治療に対し第二選択以降で利尿薬の使用を推奨しているが、耐糖能を悪化させる可能性もあり、糖尿病患者の高血圧治療に利尿剤を使用する場合には血糖値の変動に注意が必要と考えられた。
D−14
糖尿病未診断症例におけるHbA1cと75gOGTTの比較検討
第一なるみ病院
西田有子、藤井康、大見仁斉
【目的】未指摘の糖尿病を早期に発見し、糖尿病の発症の予防に寄与する可能性を検討した。【方法】今回我々は何らかの疾患およびその経過の過程において、未指摘の糖尿病の介在が疑われた症例に関し、積極的にHbA1cを測定しその値が5.3-6.0%(HbA1c6.1%以上の症例は除外とし、うち2名は5.0%未満)の臨床的に糖尿病を疑わせる症例に対し75gOGTTを実施し、糖尿病および境界型を呈する症例のスクリーニングを試みた。【結果】抄録作成時において検査症例36症例中、糖尿病型9症例、境界型17症例、正常型10症例であった。【総括】以上の結果から示されるように、境界型以上が検出される割合は高頻度であるため本スクリーニングの有用性を示唆していると思われるため今後も検討していきたいところである。
D−15
当院に救急搬送された糖尿病昏睡の実態調査─2型糖尿病入院症例での検討─
富山県立中央病院 内科(内分泌・代謝)
石倉和秀、岡島京子、河原利夫、臼田里香
【目的】2007年4月から2010年3月まで、当院に救急搬送され入院した2型糖尿病昏睡の実態を調査。【結果】高血糖昏睡は15例(男10例/女5例、68.1±18.7歳、HbA1c 10.9±2.6%)で、糖尿病初発5例、治療中断6例、感染症併発4例。低血糖昏睡は18例 (男8例/女10例、78.8±9.0歳、HbA1c 6.3±0.9%)で、シックデイ6例、明らかな誘因なし12例。うち17例はSU薬内服中で当科初診患者であった。事後、治療内容を追跡し得た9例中5例は、食事療法あるいはインスリン非分泌系薬剤で管理可能となっていた。【結語】高血糖昏睡の40%は治療中断者であった。低血糖昏睡の原因薬剤はSU薬が94%を占め、低用量内服者でも低血糖が遷延していた。昏睡予防に向け、病診連携を推進した上での治療中断対策、年齢等を考慮した適切な薬物療法の普及ならびに低血糖やシックデイの対処法を含めた患者家族指導の必要性が改めて確認された。
D−16
B群連鎖球菌によるtoxic shock like syndromeを発症するも救命し得た無治療2型糖尿病の1例
名古屋第二赤十字病院 糖尿病・内分泌内科1、同 総合内科2
中島孝太郎1、稲垣朱実1、笠井貴敏1、前田裕子1、東慶成1、丹羽一貴2、垣屋聡1
【症例】77歳、女性。【主訴】意識障害。【現病歴】既往歴は無いが普段より医療機関は受診せず。2010年1月、右足関節外側の胼胝周囲が腫れ膿が出ていたが放置。同年2月、徐々に食事摂取不良、会話不能となり当院へ救急搬送。意識障害、ショックバイタルを認め、敗血症性ショックの診断で入院。入院時の採血で血糖1015 mg/dl、HbA1c 11.6%と高血糖を認めた。血液培養よりB群連鎖球菌を検出。toxic shock like syndrome、腸腰筋膿瘍、脳膿瘍、椎間板炎を発症したが、腸腰筋膿瘍に対するCTガイド下膿瘍ドレナージ、抗生剤(MEPM,CLDMなど多剤)、グロブリン製剤投与、インスリン頻回注射による血糖コントロールを行い状態は改善した。【考察】無治療の糖尿病に、比較的稀なB群連鎖球菌によるtoxic shock like syndromeを発症するも救命し得た1例を経験した。若干の文献的考察を加え報告する。
D−17
感染性硬膜下血腫を合併した2型糖尿病の一例
トヨタ記念病院
竹内誠治、石川孝太、近藤貴昭、篠田純治
症例は64歳男性。2型糖尿病にて混合型インスリン製剤2回注射でHbA1c(JDS値)は8%台。2009年1月下旬、頭痛あり頭部CTにて左硬膜下に体液貯留を認め、慢性硬膜下血腫と考えられ、意識障害・神経学的所見を認めず経過観察となった。同時期に幽門部胃癌が見つかり手術を予定していたが、2月中旬に意識障害・右不全麻痺が出現し、CTにて左硬膜下の体液貯留が増大し緊急手術。穿頭術を施行したところ、術中に硬膜下腔より膿の排出を認め、感染性硬膜下血腫と診断。抗生物質による治療を行ったが、最終的には開頭術による膿瘍除去を必要とした。感染性硬膜下血腫は、慢性硬膜下血腫が血行性感染を起こして発症する稀な疾患である。糖尿病・高齢者・悪性腫瘍患者等の免疫不全状態において生じると報告されており、本症例ではコントロール不良の糖尿病・悪性腫瘍の存在が発症の要因として考えられた。
D−18
壊死性食道炎を合併した糖尿病ケトアシドーシスの1例
三重中央医療センター 内科1、同 消化器内科2
山本実香1、田中崇1、後藤浩之1、渡邉典子2、長谷川浩司2、田中剛史1
症例は64歳男性。糖尿病加療を自己中断中であった2010年10月下旬より発熱、食欲不振が出現。11月10日意識混濁状態となり当院へ救急搬送。JCS30、嘔吐物に血液様物質の混入が認められた。血糖値 932mg/dl、HbA1c 10.1%、PH 7.183とアシドーシスを認め、DKAと考えられ当科へ入院。炎症反応(CRP 17.9mg/dl)、左下葉肺炎を認め、抗生物質の点滴を実施。DKA対して輸液、インスリン持続静注を開始。その後強化インスリン療法にて血糖コントロールは改善。上部消化管内視鏡検査にて、食道粘膜の全周性黒変を認め、急性壊死性食道炎が考えられ、保存的治療を行い改善。本症例は肺炎を誘因としてDKAを発症し、その経過中に血流障害によると思われる壊死性食道炎を合併したしたものと考えられた。急性壊死性食道炎を合併した糖尿病ケトアシドーシスの1例を経験したので文献的考察を報告する。
D−19
初診時に縦隔気腫、食道浮腫性潰瘍を認めた未治療2型糖尿病患者例
公立能登総合病院 内科
村本信吾、田治孔明、中島理晋、橋本琢磨
【主訴】全身倦怠感、食欲不振、嘔吐【現病歴】生来健康。健診受診歴なし。入院3日前より主訴が出現。入院当日に黒色嘔吐を認め当科初診。【入院時所見】意識清明。BMI22.5。体温38.5℃。血圧100/60mmHg。SpO290%。心窩部に軽度圧痛あり。LDH1898IU/l、BUN84mg/dl、Cr1.28mg/dl、Na121mEq/l、K4.9mEq/l、Cl84mEq/l、WBC14300/μl、PLT1.9×104/μl、FDP40μg/ml、CRP44.4mg/dl、BS1022mg/dl、HbA1c12.8%。画像検査で縦隔気腫、食道浮腫性潰瘍を認めた。【経過】敗血症、DICに対し、抗生剤、γグロブリン製剤、AT-3製剤を併用した。血液培養で大腸菌を検出した。CT検査上、左腎気腫性腎盂腎炎、後縦隔・後腹膜気腫を認めた。経皮的左腎ドレナージを追加し、状態は安定した。【考察】気腫性腎盂腎炎は管理不良の糖尿病を背景として発症することが多い。縦隔・食道病変が存在する場合、後腹膜腔・腎疾患の鑑別が重要である。文献的考察を加え、報告する。
D−20
2型糖尿病に合併した気腫性膀胱炎の一例
美濃市立美濃病院 内科
三浦淳、伊藤勇、永澤守、三原昌弘
症例は74歳女性。50歳頃に2型糖尿病の診断を受けている。68歳時、インスリン治療が開始され、72歳時には血液透析が導入となっている。平成22年4月、眩暈・食思不振・肉眼的血尿を主訴に当院外来を受診。37.8℃の発熱と炎症反応(CRP 10.5mg/dl)・白血球数(WBC 11800/μl)の上昇を認めたため入院となった。入院時に腹痛の自覚症状はなかった。尿検査ではPH 5.5、蛋白(4+)、糖(3+)、潜血(3+)、ケトン体(3+)、沈査:赤血球 無数/HPF、白血球 無数/HPFであった。GA 24.9%、随時血糖244mg/dl、腹部CT:膀胱壁の肥厚、膀胱内と壁内にガス像を認めたが、腎盂には気腫を認めなかった。血液透析2型糖尿病に合併した気腫性膀胱炎と診断し、カルバペネム系抗生剤で治療した。尿培養は大腸菌(3+)であった。経過は良好であったが、慢性的に200ml〜300mlの残尿があるため今後も再発のリスクが高く注意が必要である。
D−21
HbA1cとグリコアルブミンに乖離を認めた2症例
浜松医科大学・医学部・生理学第二1、浜松赤十字病院・循環器科2
鈴木優子1、俵原敬2、浦野哲盟1
【症例1】55歳女性。29歳で糖尿病指摘、47歳よりインスリン療法を開始。同時期に3枝病変にて冠動脈バイパス術施行。HbA1c 6.0-7.5%でコントロールされていたが、2009年8月以降8-9%に上昇。自己血糖測定における平均空腹時血糖値158mg/dl、HbA1c 9.1%、グリコアルブミン(GA) 18.1%(換算HbA1c 6.16%)で、異常ヘモグロビンは認めず。甲状腺機能異常、低アルブミン血症なし。【症例2】58歳女性。48歳で糖尿病指摘、54歳でインスリン療法開始。平均空腹時血糖値117mg/dl、HbA1c 9.0%、GA21.7%(換算HbA1c 7.05%)で、異常ヘモグロビンを認めず。【考察】2例ともHbA1cとGAに乖離を認めたが、その原因となりうる他の病態は明らかでなかった。今後の血糖コントロールの指標として、持続血糖測定による血糖変動とHbA1cおよびGAとの相関を評価し、個々の目標値を設定する必要があると考えられた。
D−22
1型糖尿病血糖コントロール入院を契機に診断された両足底線維腫症合併の1例
名古屋大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌内科
坂野僚一、村越梓美、有馬寛、大磯ユタカ
症例は36才女性。16才で1型糖尿病を発症、他県の総合病院に通院していたが、2009年春名古屋への転居に伴い当院外来通院開始。前医で導入済みのインスリン強化療法継続するも血糖コントロール不良のため2010年4月入院となった。身長167cm、 体重57.3kg、血圧120/70mmHg、合併症所見として両前増殖性網膜症、腎症3期、CVR-R 安静時/深呼吸時=1.66/4.55%、両アキレス腱反射消失。採血結果はHbA1c 9.1%、抗GAD抗体陰性、血中CPR 0.43ng/mlであった。理学所見で両足底に靴擦れ、胼胝、鶏眼、両足底中央部に表層での可動性良好な圧痛を伴う径2cm弾性硬の腫瘤あり。MRIにて両足底皮下にT1、T2共に低信号を呈する腫瘤あり、皮膚科および整形外科医の診察を経て両足底線維腫症と診断された。本症例では両手掌に線維腫を認めず両足底にのみ発症しており比較的稀な症例と考えられたので若干の考察を加えて報告する。
D−23
顕性腎症の改善と頸動脈プラークの退縮を認めた2型糖尿病の1例
富山赤十字病院 内科
川原順子、高田裕之、平岩善雄
症例は48歳女性、主訴は全身浮腫と口渇。HbA1cが12.8%、随時血糖503mg/dl、尿たんぱく3+であり、当院内科を紹介受診した。血圧210/138mmHg、全身浮腫あり、血清アルブミン 2.7g/dl、Cr 0.9 mg/dl、LDL-C 189 mg/dl、BNP 317pg/ml、1日尿たんぱく1.24 g/日、福田分類B2-3。両側胸水と腹水あり。内頸動脈の狭窄と総頸動脈で2.8mmのソフトプラークを認めた。退院時には糖尿病はアカルボース150mgのみで血糖コントロール良好となった。テルミサルタン、シルニジピン、アトロバスタチン、シロスタゾール、ピオグリタゾン、EPAで加療した。1年半後の頸動脈エコーで石灰化プラークへの変化とIMTの減少を認めた。顕性腎症3期から尿アルブミンクレアチニン比が18μg/gCrと正常化した。頸動脈プラークが退縮しており、集学的治療の重要性を考える上で興味深い症例と思われる。
D−24
DKAの経過中に急性肺障害を来した慢性膵炎合併LADAの一例
朝日大学歯学部附属村上記念病院
佐々木昭彦、猿井宏、武田則之
症例は59歳男性。大酒家で前医にてインスリン療法を受けていたが事情にて2009年10月22日より中断。23日より嘔気あり、飲酒はせず自宅で寝ていたが24日意識消失状態で発見され当院救急搬送。血糖1156mg/dlおよびAG開大を伴う代謝性アシドーシス、アシデミア(pH6.96)よりDKAと診断。生食輸液と持続インスリン療法を開始するも低血圧症および低酸素血症、尿量減少を来たし昇圧剤を開始。血圧安定と共に利尿は得られるもXp/CTにて両側下肺野スリガラス陰影を認め急性肺障害と診断。低酸素血症はその後徐々に改善したため陽圧換気/ステロイド投与は行わず、肺は若干の繊維化を残すまで改善。なお抗GAD抗体陽性(137U/ml)、および膵石を伴った慢性膵炎を認め、糖尿病の病因としては成人性潜伏型自己免疫性糖尿病(LADA)および慢性膵炎による二次性糖尿病の二つの病態の関与が考えられた。